ドラマ「silent」大ヒットで「シモキタ」周辺が“聖地”に 小田急「再開発」を成功に導いた“地域密着”戦略
2022年冬、最大のヒットドラマとなった「silent」(フジテレビ系)。その人気は凄まじく、主演の川口春奈と目黒蓮による印象的なシーンが撮影された小田急線の世田谷代田駅前や、同駅~下北沢駅~東北沢駅にかけての遊歩道は、多くのファンが“聖地巡礼”に訪れる人気スポットになっている。実はこれらの撮影地、世田谷代田~東北沢間の地下化に合わせて再開発された場所で、少し前まで線路と枕木が続く殺風景な風景が広がっていた。線路跡はいかにしてドラマの撮影地に選ばれるようなエリアになったのか。小田急電鉄まちづくり事業本部エリア事業創造部の向井隆昭氏に聞いた。【華川富士也/ライター】
最終回放送後も“聖地”に集う「silent」ファン
小田急電鉄は12月15日、11月の世田谷代田駅の定期外乗降人員数が、「silent」放送開始前の9月と比較して22.7%増えたと発表した。また最終回の放送に合わせ、12月16日~25日まで下北沢駅南西口改札前の広場に「silent」のクリスマスツリーが設置され、最終回放送後も多くのファンを集めていた。
以前、『ドラマ「silent」の聖地になった「世田谷代田駅」、“紬”と“想”も知らない「見捨てられた駅」の劇的ビフォーアフター』という記事でも触れた通り、紬(川口)が立っていた世田谷代田駅の駅名板の下も、想(目黒)が座っていた改札前のベンチの場所も、追いすがる紬を想が「うるさい」と振り払った「代田富士見橋」も、10年前は線路が敷かれ、電車が行き交っていた。
さらに、最終回で想がかすみ草を手に歩いた「ボーナストラック」の遊歩道、想がかすみ草を受け取った「シモキタ雨庭広場」、第9話で想が紬に「ずっと」の手話を教えた「reload」の遊歩道、「silent」のクリスマスツリーが置かれた下北沢駅南西口改札前の広場、これらの場所も全て10年前は電車が頻繁に走る線路だったのだ。
「silent」のこうした印象的なシーンは、完成して間もない、線路の地下化に伴う再開発で生まれた場所で撮影されていた。
低層建築に個人店が並ぶ新しい街
小田急線の東北沢~世田谷代田間が地下化されたのは2013年のこと。この時点では本来の目的である複々線化が完成しておらず、地下で工事がずっと続いていた。地下での工事が終了し、複々線運用が始まったのは2018年3月だった。
ここから地上の線路跡地の工事が本格的に始まり、個性的な店が軒を連ねる世田谷代田側の商業施設・ボーナストラックが2020年、世田谷代田駅前広場とこちらも個性的な店が軒を連ねる東北沢側の商業施設reloadが2021年、シモキタ雨庭広場が2022年にオープンした。
ボーナストラックやreloadなど、「silent」のロケ地となった東北沢~世田谷代田間の遊歩道を歩いていると、気がつくことがある。低層の建物ばかりで、高層ビルがないのだ。またテナントを見ると、有名なチェーン店が入っておらず、初めて見るような個性的な店ばかり。それどころか、再開発を手がけた小田急系のスーパーも入っていない。下北沢という地区の集客力を考えると、これは意外すぎる街の作り方だ。
というのも、下北沢駅の1日の乗降客数は、小田急線9万6539人、京王井の頭線8万9091人(ともに2021年度)。乗り換え客を含んでいるとはいえ、18万人もの乗降客数がある。よくある駅の再開発では、これだけの乗降客数を見込めるなら、まず建蔽率と容積率が許す限りの大きなビルを建てる。さらにビルには家賃を計算できる大手チェーンなどのテナントを入れ、抜け目なく系列会社のスーパーなどを入れる。かけたコストを回収し、しっかり儲けるためには、これが当たり前のやり方とも言える。
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