「2トンの車を坂の下から上まで押させた」 井上尚弥の父が明かす“スポ根”トレーニング術

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坂道で2トンの車を

 その練習たるや独特で、

「神奈川の実家の周囲には坂道がたくさんありました。そこで2トンのワンボックスカーのギアをニュートラルにし、なだらかな坂の下から上まで押し上げさせたのです。少しスピードが出ると、運転席に座った私がブレーキを踏み、負荷をかけた。これを繰り返すことで尚弥は、下半身、特に太ももの筋肉が発達しました」

 この練習は高校3年生の頃から1年間ほど続いたという。

「先々のプロ転向を見据えていたのです。意図したところはクリンチの対策。アマチュアの試合ではクリンチになるとすぐにレフェリーに引き離されますが、プロの試合ではある程度もみ合います。クリンチで体力を奪われると、スピードの維持が難しくなる」

 そこで、

「もみ合いに負けないようにその(車押しの)トレーニングを採り入れたのです。通りがかった人が、『故障ですか』と、間違えて一緒に車を押そうとしてくれたこともありました」

2階から吊るした荒縄を登るトレーニング

 自宅2階のバルコニーに荒縄をつけ、その垂れ下がった縄を両腕の引く力だけで登っていくトレーニングも、高校時代から続けてきた。これは、

「握力、二の腕の裏側、背中、腹筋と万遍なく鍛えることができるからなのです」

 とのことで、まさしくスポ根そのもの。もっとも、それらはすべて“合理的な理由”があるという。

「厳しい練習は不可欠ですが、目的を理解しないまま体を酷使するトレーニングはいけません。強制はせず、何のために練習するのかをしっかり説明して納得させる。これが大切なのです」

 名伯楽の父親こそ陰の立役者といえよう。

週刊新潮 2022年12月29日号掲載

ワイド特集「クリスマスキャロルが流れる頃」より

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