知床観光船事故、社長の父が周囲に漏らした“高い保険に入っていてよかった”  船長への責任転嫁発言も【スクープその後】

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 北海道の知床半島沖で観光船が沈没し、乗客14人が死亡した事故から8カ月以上が経過した。12月15日、事故について調査を進めていた国の運輸安全委員会は、沈没の原因がおおむね解明されたとして経過報告書をまとめ、事件の解明に一歩前進したかに見える。一方、運航管理者を務めていた桂田精一社長については、業務上過失致死の疑いで来年立件されると報じられている。事件当日の様子やその後の社長の対応などについて、改めて振り返る。

(以下、「週刊新潮」2022年5月5・12日号を再掲する。日付や年齢、肩書などは当時のまま)

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 惨事は4月23日の土曜日、北海道は知床半島の西部沖合で起きた。

 世界自然遺産に登録された知床の玄関口・ウトロの港には、知床の「沖合ツアー」を主催する観光船会社5社が事務所を置く。そのひとつ「知床遊覧船」の待合所に道内ほか、東京、大阪、福岡などから乗船客24名が集まった。同社のHPには、こんな文言が躍る。

〈知床半島は車では半分までしかいけません。秘境知床が神秘のヴェールを脱ぐのは、船の上だけです〉

 半島の北部には原則、一般人が足を踏み入れることができない世界遺産エリアが広がる。だから手つかずの自然を洋上から満喫しましょう、というわけだ。

 何種類か用意されているツアーのうち、24名が予約したのは半島の突端、知床岬までを往復する3時間の最長コース。午前10時、出航を前に港に打ち寄せる波の音を耳にし、髪を乱す冷たい風を肌に感じ、これから始まる“冒険”への予感に胸を高鳴らせたことだろう。

「出航するなんて考えられない」

 だが、その日の海の表情は、オホーツク海を知り尽くす漁師たちには穏やかでないものに見えた。

「あの日は波浪注意報も出て、風も北風だったから」

 と言うのは、ウトロ漁協のベテラン漁師だ。

「知床半島は南西から北東に伸びる地形だから、この辺は南風が吹いても波はあまり高くならない。でも、北風には滅法弱くてね。北風が吹くと、海が浅瀬にせり上がってくるような感じになって、波が大きくなる。午後から北風が強まる予報まで出ていた。出航するなんて考えられない。自分も漁を見合わせたよ」

 そして、同業他社の幹部はこう証言する。

「うちの船長たちは“危ないから、今日、沖に出るのはやめときな”って、あそこの船長に言ったんだ。でも、いつもそうなんだけど、あそこは言うことを聞かないからさ。(事故は)起こるべくして起こった感じだよ」

 あそこの船長、つまり知床遊覧船の所有船「KAZU I(ワン)」の船長に、そうした忠告がなされていようとは、乗客は知る由もなかった。

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