韓国が西側陣営に戻らないのはなぜか 米中の間で右往左往し続けた尹錫悦の半年間

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「対ロ制裁で損するな」と尹錫悦

――韓国人は中ロが支配する世界になってもいいのでしょうか。

鈴置:うれしくはないでしょうが、「絶対にイヤ」というわけではありません。何が何でも自由と民主主義を守ろう、との志は韓国人にはないのです。2022年2月のロシアのウクライナ侵攻の際にもそれが明らかになりました。

 ロシアのウクライナ侵攻前の1月25日、大統領候補だった尹錫悦氏は「[対ロ]経済制裁により、我が国の企業が被害を受けないよう徹底的に備えよ」と語りました。侵攻を牽制するのではなく、自国の損得だけを語ったのです。

 僅差で落選した李在明(イ・ジェミョン)候補は侵攻翌日の2月25日、「キャリアが6カ月の初心者政治家が大統領になり、ロシアを刺激したために衝突した」と論評しました。

 政治経験のない尹錫悦氏をあてこすったつもりでしょうが、侵略国家ロシアへの怒りもなければ、命をかけて民主主義を守るウクライナの人々への敬意もない発言でした(『韓国民主政治の自壊』第1章第3節「絶望的な劣等感が生む『から威張り』参照」。

 政治家だけではありません。日本がウクライナ支援に乗り出すと、韓国メディアの東京特派員は「日本の下心は何か」「国連理事国を狙う日本」といった視点で一斉に報じました(「韓国人はなぜ『ウクライナ』に冷たいのか ゼレンスキー演説を聴いたのは国会議員の2割」参照)。

 保守系紙の朝鮮日報からYTN、中央日報、左派のハンギョレまで。彼らには「専制国家の横暴を許してはならぬ」「同じ民主主義国家の苦境を助けよう」といったごく自然な心情が理解できないのです。

先進国なら先進国らしく振る舞え

――しかし、韓国人は「我が国の民主主義の水準は日本よりも高い」と言っています。

鈴置:その言説こそが、韓国の本質を示します。韓国人は「民主主義国」の称号が欲しいだけなのです。長い間、後進国コンプレックスにさいなまれてきた韓国人は、先進国として認められるには経済成長と民主化が必要だ、と考えてきました。

 そこで今、「豊かになった韓国」と「日本よりも進んだ民主主義を誇る韓国」を世界に向け宣伝するのです。韓国人は本当に民主主義の実現を目指すのか、それともその称号さえ得ればいいのか――。1987年の民主化以降、韓国人を観察してきましたが、だんだん彼らの本音が見えてきました。

――東京特派員が一斉にそんな記事を書くようでは……。

鈴置:ただ、韓国の奇妙さを指摘する人はいることはいます。冒頭で引用した中央日報のイェ・ヨンジュン論説委員です。「GPSが故障すれば道に迷う」には興味深いくだりがあります。

・尹大統領の国連総会での演説は朝鮮半島中心の思考方式を脱し、国際社会の普遍的な価値と規範を重視し、国際社会での先進国待遇に見合う役割を果たすとの公約である。

 先進国待遇――先進国扱いして欲しければ、先進国らしく行動せよ――と国民に訴えたのです。悲痛な叫びです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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