「揚げ玉」の偉大さを改めて考えてみた お気に入りの“変わり種”レシピをご紹介(中川淳一郎)

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 漫画家・東海林さだお氏の週刊朝日連載「あれも食いたい これも食いたい」は35年も続く長寿連載で、私は愛読しています。毎週一つの食べ物を元に同氏がああでもないこうでもない、と考察を重ね、時に「かっぱえびせん」が口の中に何本入るかという、重鎮にあるまじき実験をしたりします。高級なものを食べたことを報告する時は、あらかじめ読者に謝罪をして文章を開始する。

 ある時は「白湯」で一本書いてしまう。白湯なんて「冬の朝、ちょっとホッとしますね。薬を飲む時、白湯がいいらしいですよ。おしまい」ぐらいしか普通書けないのに、希代のエッセイ名人は数千字を書ききってしまう。食べ物に関する文章は読者が「そうそう!」「いや、オレの場合はだねぇ」「全然わかってない!」と言いたくなるものです。

 というわけで、私も書いてみます。テーマは揚げ玉。というのも、同連載の文庫版『ゆで卵の丸かじり』内の「ラーメンの具を愚考」で東海林氏は「二つしか選べないという制約があるのであれば、メンマと揚げ玉!」と断言したのですが、やはり大重鎮、揚げ玉の実力をよーくわかっていらっしゃる。同氏のエッセイはそこで終わっているので、その続きとして、揚げ玉の魅力を私なりに続けます。

 揚げ玉の実力、それはその汎用性の高さにある。ラーメンは脂ギトギトを楽しむ料理であり、そのギトギト増幅効果を揚げ玉が担うのだ。何しろ日本のそば・うどん界の大重鎮といえば「たぬきそば・たぬきうどん」があり、単に天ぷらを揚げた時に出てくるカスでありながらも主役を張るほどの実力があるのだ。よって、揚げ玉の実力とは、万人が認めるところである。東洋水産の「緑のたぬき」というカップそばもロングセラーである。「たぬき」と言いつつも、実際はかき揚げ風のものが乗っているが、「たぬき」の名を冠したのは、同社が揚げ玉の実力に敬意を表しているからだろう(オレ、論理的におかしくないよな)。

 そば・うどんと抜群の相性を誇る揚げ玉だが、実は京都・高瀬川沿いの「博多長浜ラーメン みよし」では、卓上トッピングとして紅しょうがやゴマといった定番に加え、カレー粉という異端があり、さらに揚げ玉(関西では「天かす」)が設置されている。

 というわけで、ラーメンのプロが認めた揚げ玉だが、他にも用途は多数ある。筆頭は納豆だ。納豆をパック内で100回ほど混ぜ、そこに刻んだネギ、味の素、タレ、からしを入れ、さらに魚粉と揚げ玉を入れてしまうのである! これがすこぶるビールに合う絶品つまみとなる。

 揚げ玉はタコ焼きにも必須だし、焼きそばに入ると時々カリカリの食感が心地よい。もっと言うとみそ汁に入れてもおいしい。そして、究極なのが、唐津のミシュラン二つ星の「鮨処 つく田」の松尾雄二大将が近くの居酒屋「さんぽ」(なんと正午開店!)に提案し、レギュラーメニューになった料理が揚げ玉を使用していること。

 その名も「天玉丼」。作り方は極めて簡単。(1)ご飯を丼によそう(2)半熟の目玉焼きを乗せる(3)その上に揚げ玉と塩昆布を乗せる(4)かき混ぜて食べる。実に美味ですぞ。

 いやぁ、食について書くのは楽しいですね。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年12月29日号掲載

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