「大好きな父の死をきっかけに歌詞が書けるように」 「キレてます!」シリーズの遠坂めぐが語る父への感謝

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ゾーンに入っている感覚

 そんな作詞に対するトラウマを変える出来事が19歳の夏に訪れる。大好きな父が天国に旅立ってしまったのだ。父はいつも私の一番の味方でいてくれたし、誰よりも私の音楽の道を応援してくれていた。そんな父を亡くして、しばらくの間その悲しみと原動力の喪失で一切の音楽活動を完全にストップしてしまった。四十九日を終え心の整理が少しずつでき始めた頃、ふと父に対する思いが心の奥底から込み上げてきた。伝えたいことが溢れてくるたび「この気持ちはきっと忘れちゃいけない」と思い、一つ一つ逃さないように必死で言葉に落とし込んでメモ帳に書き留めた。その時はいわゆるゾーンに入っているような感覚で、一度たりとも手を止めることなく次々に言葉が出てきた。気付くと、父への思いが素直につづられた一曲の歌詞に仕上がっていた。その歌詞に後からメロディーをつける詞先(しせん)という形で、この曲は詞曲含めてたった1時間で仕上がった。曲名は「月にありがとう」。

 この曲のおかげで歌詞に思いを乗せるとはどういうことなのか、身を削って言葉を紡ぐとはどういうことなのか初めて分かった。同時に、魂のこもった言葉を音楽に乗せて歌うことの楽しさにも気付けた。これを機にあれほど嫌いだった作詞が大好きになり、今では作詞でお仕事までいただけるようになった。今思えば、父は自らの命を使ってまで私に本当の意味での音楽の楽しさを教えてくれたのかもしれない。本当に、どこまで娘思いな父親なんだろう……。

遠坂めぐ(えんさか・めぐ)
シンガーソングライター・作詞家・作曲家。「切れてるバターにキレてます!」から始まった動画「キレてます!」シリーズは、SNSにて3カ月で累計3億回再生突破。

デイリー新潮編集部

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