「うる星やつら」リメイクは旧作超えられない? 「リコリコ」奮闘の陰で作画崩壊、公開延期が続く業界の課題【2022年のアニメ振り返り】
リメイク版「うる星やつら」は……
――映画編では「THE FIRST SLAM DUNK」について聞きましたが、「うる星やつら」も36年ぶりにリメイクされました。
「うる星やつら」は初回から見ています。リメイク版を見て、その後の旧作版を見るんですが、昔の面白いなと伊藤家では話題になります。
旧作版はお世辞にも絵がいいわけではないですが、情報の密度が違う気がしています。今の方はなんだか物足りない。絵はリメイク版の方が綺麗ですし、声優さんも旧作版を再現したような芝居をみなさんしていますけど、全体的に稀釈されたものを観ている感じがします。単なる懐古趣味かもしれませんが。
俺は「うる星やつら」直撃世代ではないですし、そもそも昔見ていなかったんです。なぜ旧作の方が面白いのか、それが押井守さんの功績なのかはわからないんですけど、なかなか分析できない。おそらく新作と旧作を比較してどちらが面白いかと聞いたら、旧作と答える人がけっこういるんじゃないでしょうか。そのよくわからない面白さは研究に値しますね。
――それは面白いですね。新発見、再発見がありそう。2023年には「るろうに剣心」もリメイクしますが、そこでも旧作版と比較してみると発見がありそう。
ただ「るろうに剣心」の追憶編という絶対超えられない高い壁があってですね。あれはもう二度と作れない。セル時代の作品なんですが、よくもあんなものを作ったなという驚愕のフィルムです。それを作ったのが「SPY×FAMILY」監督の古橋一浩さん。20年以上に渡ってコンスタントに面白いものを作っていることは本当にすごいですね。尊敬します。
これは懐古主義なセル時代の美意識なんですが、よくこんな暗い画面を作ったなと驚きます。明かりのない幕末の京都の夜なので当然なのですが、それをむりやり明るくしない。物語もOVAということで、少年漫画であることを忘れたような血がドッパドッパ出る殺伐とした話が展開します。
――ジャンプ関連以外の話題作でいうと、「リコリス・リコイル」がありました。監督の足立慎吾さんは伊藤さんが手がけた「ソードアート・オンライン」でキャラクターデザイン、総作画監督を務めた方です。伊藤さんはずいぶん前から、足立さんの作品を手伝う予定があるとおっしゃってましたね?
以前言っていた作品が「リコリコ」でした。いったい何年かかってるんだって(笑)。当初の予定から3クール分くらい後ろに行っているはずなんですよ。その分ランニングコストはかかっていると思います。コンテを描いてから完パケまでどのくらい時間がかかったのやら。
――海外では、劇中のミカ、吉松という中年男性2人の関係について褒められていました。私自身も、あんなに自然に同性愛を描いているアニメはこれまでなかったなと感心しました。一方、主人公の千束、たきなの関係はあれは百合なんでしょうか?
百合ではないんじゃないですかね。カテゴライズする人がそうしているだけで、コンビものというか。打ち合わせでも足立さん自体が明確なワードを使わないから、あてはめられないんですよ。「二人の関係性が……」というんですけど、「どういうジャンルとかですか?」と聞くと「わからない」と(笑)。「機動戦士ガンダム 水星の魔女」でも百合に近い関係性の話が人気がでているので、なおさら女二人の「すずめの戸締まり」を観たかった気持ちになります。
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