「SLAM DUNK」は凄かったけれど…不可解だった「ONE PIECE FILM RED」の大ヒット【2022年のアニメ振り返り】

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伊藤監督の2022年ベスト作は…

――逆に伊藤さんが2022年一番面白かったアニメはなんなんですか。

 中国のアニメ「雄獅少年 少年とそらに舞う獅子」です。これは大多数の人はたぶん見ていない作品ですが、素晴らしかったです。

 物語は中国の片田舎が舞台で、獅子舞の話です。スポーツ獅子舞というのか、少年たちが獅子舞対決をするんです。獅子舞は3人1チームで、地方大会を勝ち上がり全国大会に行くぞというところで、途端に現実の問題がやってくる。出稼ぎに行っていた主人公のお父さんが倒れ、代わりに出稼ぎに行かなければならなくなる。そこでチームに残った2人と師匠が「代わりに全国大会に行く」となる。さて、チームと主人公はどうなる? という流れです。

 現代のソーシャルイシューも描かれますし、中国の貧乏表現は日本のアニメと比べると非常に厳しいものがある。でも映画として、一瞬の奇跡が見ている側と登場キャラクターの気持ちがシンクロして起こるようになってます。

 そもそも獅子舞と聞くと一見地味そうじゃないですか。でもアニメーションとしての獅子舞の動きが素晴らしく超いいんですよ。色もカラフルで全然地味ではない。ある種のスポ根ものなので、少林サッカー的な動きもあるわけなんですよ。全然言葉がわからないのにも関わらずエンディングの曲にもすごく心を揺さぶられました。

 中国から日本に入ってきたアニメで「羅小黒戦記(ろしゃおへいせんき)」という作品があり、日本ではアニプレックスが配給して吹き替え版をつくりましたけど、「雄獅少年」でもやってほしいですね。それこそ主人公3人の声を「鬼滅の刃」の主演の子でやってほしい。骨太でチャレンジングな作品なので、もっと多くの人に見てほしいです。

――なるほど。「雄獅少年」には先ほど語られた、映画の普遍性があるんですね。

 日本のアニメはその普遍性の部分が薄くなっている気がします。やや狭いゾーンを狙い続けていってるというか。原作物でも、制服を着た少年、少女が主人公で活躍する作品でもいいのですが、そこに50年後まで残るものは果たしてあるのか。スタジオジブリの宮崎駿さんがコンスタントに作品を作れなくなり、高畑勲さんももういない。その部分が希薄になっているのではないかと。今年は映画館で国内外問わずアニメ映画を30本観て、もっとそういった普遍性のある作品を観たいなと思ったし、自分でも作りたいですね。

後編へ続く

徳重龍徳(とくしげ・たつのり)
ライター。グラビア評論家。大学卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。記者として年間100日以上グラビアアイドルを取材。2016年にウェブメディアに移籍し、著名人のインタビューを担当した。現在は退社し雑誌、ウェブで記事を執筆。個人ブログ「OUTCAST」も運営中。Twitter:@tatsunoritoku

デイリー新潮編集部

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