「SLAM DUNK」は凄かったけれど…不可解だった「ONE PIECE FILM RED」の大ヒット【2022年のアニメ振り返り】
「SLAM DUNK」はどこが凄かったのか
――いま、話題の映画といえば「THE FIRST SLAM DUNK」はいかがだったでしょう。
バスケットボールの試合をガチにまるっと見せる、というやり方は面白い手法だし、凄えなと思いました。目新しいというか、今まで見たことがないものを見せてくれた。アニメとしてこういうやり方があるんだと、井上雄彦先生に脱帽です。
荒木哲郎さん(アニメ「進撃の巨人」「バブル」などの監督)がツイッターで、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」と同じ感じを受けた、と語っていました。「閃光のハサウェイ」はモビルスーツがもしリアルにいて市街戦をしたらこうなるという解釈で富野監督のガンダムとは違う見せ方を明確にしています。
今回の映画「SLAM DUNK」はスポーツ漫画をリアルにやる中で、狭いコートの中で2メートル近い高校生たちがバスケットをやったらこういう風になるのだという見せ方をした。永遠に走っていられるコートなんてなくて、攻守の切り替えも数秒で行われてしまうコンパクトさ。展開の速さ。さらに、花道が一度退場して、安西先生が「桜木くん」と言っている後ろに映るコートで、ずっと選手が動いてる驚愕のカットがあり、なんて面倒くさいことをやっているんだと思いました。
――公開前にはテレビアニメ版の声優を刷新したことで炎上しました。
俺はファースト版の声優たちは、あまり誇張しない芝居をしているし、さらっと流していく撮り方にも合っているのでいいと思います。河田兄の人(かぬか光明さん)が個人的にはツボでした。
――今回の映画は、ストーリーなど情報を与えないプロモーションをしていましたが、声優だけを先に発表したために炎上してしまった。公開直前に井上雄彦さんが声優の刷新理由についてコメントを出していましたが、あれを声優キャスト発表とともに出していれば、避けられた炎上だったかもしれません。
本当は井上さんは声優の発表も公開までしたくなかったとも聞いています。なのでその点では東映の宣伝部がよくなかったかもしれませんね。声優がただしゃべる発表のYouTubeはいらなかったと思います。
――同じ少年ジャンプ原作の映画化で、今年1番のヒット映画となった「ONE PIECE FILM RED」はどうでしたか。
うーん。俺にはあまりピンとこなかったのです。アニメーションの出来としてもけしてよくなかったし。映画では最後、ウタの歌が流れて劇中のキャラクターたちも感動したようになっているじゃないですか。でも、みんなの心を支配しようとした人の歌ですよ?
悪魔(トットムジカ)が出てきてからも、ウタ自身はなにもしない。ルフィとシャンクスが頑張る。いやウタもなんかしろよ、と。そうした頑張りがなく、こちらが知らないうちに自由を奪おうとしたウタの曲を聞いて、いい曲だなはもう欺瞞でしかないですよね。
まあ、劇中のキャラクターたちはそんなこと知らないという見方もできますが、観ている側としてはドン引きですよ。命をかけてみんなを守ろうとする行為がない限りは、気持ち悪いものを見せつけられているようにしか感じない。
単純に出来がよかった「呪術廻戦0」や「すずめの戸締まり」、チャレンジ精神あふれる「THE FIRST SLAM DUNK」がヒットするのは納得できますが、これが大ヒットしているのを見て、俺はどういう人たちに映画を作ればいいのか頭を痛めています。
――「犬王」や「鹿の王 ユナと約束の旅」など期待された作品も公開されました。
「犬王」はフェスに行くような感じで見てくださいと喧伝されて行ってみたのですが、冒頭10分は最高。こりゃあ凄えものを見せてくれるに違いない、と思っていたのですが、肝心のライブシーンというか、能のシーンでテンションがあまり上がらず、曲が長いなあと感じてしまいました。
インタビューを読むと、野木亜紀子さんの脚本からけっこう変えているそうなんですが、そちらの脚本も読んでみたいですね、もう少し主人公2人のバディ感、ドラマがあったのではと思いました。意外と犬王と友魚どちらかが欠けても生きていられない、という関係性ではなかったので。
「鹿の王」は脚本が僕とよく仕事をしている岸本卓さんで、監督が複雑な経緯があって、安藤雅司さんがやられているんですけれど、うーん、トップアニメーターとて、絵以外の面でもなんらかのこだわりが映画の監督には必要なのだということを教えてくれるものだと思い至りました。
安藤さんはさすがにトップランナーとして素晴らしい作画のカットが続くし、めんどくさい四つ足のアニメーションがたくさん見られるのですが、それ以外に興味がなさすぎるように見受けられました。
あんなにセリフがぱくぱく余っているアニメ映画を近年観たことがない。劇場作品の場合、アフレコし終わったらその音声に合わせて編集をし直すことが多いのです。特に俳優さんを起用すると、セリフが早く終わりがちなので、ちょっと口パクが余るという現象が起きる。「鹿の王」もメインの声優が俳優さん(堤真一、竹内涼真など)なんですが、たぶんアフレコ後にこの作業をしなかったのではないかと。
――えっ、でもそれは周りのスタッフが進言するのではないんですか?
そうなんですよね。だから、なぜやらないんだと。カットの頭に9コマくらいパクパクと口をあける場面から始まるというシーンが結構あるんです。声のお芝居自体に問題がなくても、掛け合いのリズムがおかしかったり変な間ができてしまう。なので見ていて気持ちが良くない。上映時間も2時間オーバーしているけれど、そこを詰めるだけで2時間のうちに収まるのになと思いました。
あと、安藤さんはジブリ出身なのに、料理がうまそうなシーンが何でないんだ! と。ヤギのスープが美味しいかどうかは分かんないですけど、美味しそうに描くことはできる。飲みたい! という気持ちにさせてくれ!
一番フェティッシュだったのは血がドロドロと出てくるところで、そこはこってり描いていた。そういうところに興味があったのかもしれないですけれど。これだったらこの作画リソースを同時期に制作していた「ジョゼと虎と魚たち」に分けてほしかったと思いましたね。
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