校正者の牟田都子が語る「最も校正に向いた鉛筆」 手に入る限りの筆記具を試してたどり着いた“相棒”
「ゲラへの書き込みは鉛筆で」
フリーランスの校正者で、著書に『文にあたる』、共著に『本を贈る』『あんぱん ジャムパン クリームパン 女三人モヤモヤ日記』などがある、牟田都子さん。「ゲラへの書き込みは鉛筆で」という校正の掟を胸に、手に入る限りの筆記具を試した彼女がたどり着いた“相棒”とは。
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1ダース入りの鉛筆の封を切るのはこれが3度目だ。小学校に上がったとき与えられたのと同じメーカー、筆箱として使えそうな立派なケース入りで、消しゴムまで付属しているのも当時から変わらない。出版社の校閲部という部署に所属したときに初めて自分で買って、15年弱で24本を使い切った計算になる。多いのか少ないのかはわからない。
赤鉛筆一本でできる仕事というイメージを抱いていたが、最初の出勤日にゲラへの書き込みは鉛筆でと言われた。言葉は書いた人のものであって、赤字で「正す」権利は校正者にはない。疑問や提案は消すことのできる鉛筆で書き込み、判断は編集者と著者に委ねるのだと教えられた。
周囲では備品の鉛筆――緑色の軸に金で社名が刻印されていた――ではなくシャープペンシルを使う人も多かった。知識も経験もないままいきなり現場に飛び出してしまった30歳の新人に、鉛筆でなければというこだわりが最初からあったわけではない。師事したベテラン社員の達筆に憧れて形から入っただけのことだった。
3倍大きく書くようにと言ったのも師匠だった。消しゴムのくずと見紛う字をゲラに並べていたのを見かねたのだろう。「靴」の「匕」のはらいの先が突き抜けていれば旧字、止まっていれば新字。小さな差異を編集者、著者、印刷所の誰が見ても見誤る心配がないよう書き分けなければならない。そうは言われても自信がないからなかなか大きくは書けなかった。
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