逃亡から3年「ゴーン」の家政婦は見た! ボロ靴下を縫って履いた「日産会長」の素顔

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留置所のゴーンへの手紙

 けいこさんが家政婦として働き始めて数年後、ゴーンとの距離はいっそう近いものになる。2018年11月に金融商品取引法違反で東京地検特捜部に逮捕された ことがきっかけだ。けいこさんは友人からのLINEでそれを知った。

「12月の勤務シフトがまだ決まっていなかったんです。逮捕されて私の仕事はどうなるんだろうと思いましたが、まあすぐに出てくるだろうと思っていた。ところが1月になっても、2月になってもその様子がない。カルロスのスケジュールなどを取り仕切っていた、日本人の執事の方に電話をしたんですが『もうカルロス・ゴーンとは一切かかわりたくない』みたいな態度で。おそらくマスコミが殺到して嫌になっていたんでしょう。電話の後ろで奥さんらしき女性の『早く切って!』という声も聞こえました」

 そこでけいこさんは、ゴーン宛にしたためた手紙と差し入れをもって、東京拘置所を訪れたのだという。

「なぜそんなことをしたのかというと、そうですね……。普段からカルロスは紳士でしたし、娘ちゃんたちもカルロスを愛していたし、悪い人ではないという確信があったんですよ。差し入れには高い歯ブラシとか、サスペンスが好きなので英語の小説などを選んだように記憶しています」

 英語で書いた手紙は〈あなたの麻布の家を掃除していたけいこです。滞在中はハードだったので私のことをよく知らないことは分かっています〉と始まり、便箋9枚に及んだ。

「あなたは捕まるようなことをしていないと信じている、そんな気持ちを込めて書きました。逮捕を受けて日産の友人たちが急変したのも、筆をとる後押しになりました。どうやら会社は、社内事情やカルロスの話を口外するなとお達しを出してたようで、みんな一夜で“ゴーン大嫌い”の態度をとるようになったんです。それを見て、カルロスが可哀そうだな、と思ったのもありますね」

 拘置所をおとずれた後日、見知らぬ番号からけいこさんの携帯に着信があった。とると「ポール・ワイス・リフキンド・ワートン・アンド・ギャリソン」の人間だという。ゴーンが弁護を依頼した、世界最強といわれる米ニューヨークの弁護士事務所である。

「“ゴーンさんがあなたの電話番号を覚えていて電話しました”“けいこさんとまたコンタクトをとりたいと言っています”ということでした。それでまた東京拘置所に行き、カルロスと面会したのです。すっかり痩せこけていていましたが、怒った顔も、悲しい顔も見せなかった。家政婦の仕事がなくなった私のことを案じてくれたのを覚えています。そして『もう一度働いてほしい』と頼まれました。もちろんOKと答えましたよ。しばらくは拘置所生活でたまった洗濯物をあずかっていました。洗濯してもらえる曜日が決まっていて、出した服がなかなか戻ってこないからとか、そんな事情だったはずです」

 容疑を一貫して否認し続けたゴーンの拘留は108日に及んだ。保釈金10億円をおさめ19年3月6日に外に出たものの、それまで暮らした麻布のマンションに戻ることは許されず、インターネットや携帯電話の使用、関係者との接触が禁じされる「制限住宅」での生活がはじまった。

 不自由な監視生活のはじまりから、レバノンへ国外逃亡するまでのおよそ1年の間に、けいこさんとカルロスはさらに親しくなっていった。

つづく

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