相撲界は「移民受け入れ」がうまくいったケースか 世界に合わせるより楽な「相撲型」国際化(古市憲寿)

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 柔道と相撲。共に日本の「国技」ともいえるスポーツだが、多くの外国人競技者を擁する。だが両者はその国際化にあたって、全く別の道をたどった。

 柔道はオリンピック正式競技であり、スティーブン・セガールからプーチン大統領まで世界中に愛好家がいる。フランスの競技人口は日本よりも多い。これは柔道が、西欧の合理性を採用しながら、国際的にも通用するスポーツになろうと尽力してきた結果である。

 一方の相撲も多くの外国人力士が活躍する。現在、幕内力士42人のうち外国出身は約2割にあたる9人だ。外国人を呼んできて、日本のルールに合わせてもらうことで、「内なる国際化」を果たしてきたのだ。

 相撲の国際化のあり方は、日本の近未来を考える上でも参考になる。この国では、少子高齢化によって、人口減少が進む。島国のせいか自国に小国意識を持つ人も多いが、日本は世界で11番目に人口の多い国だ。だから内需のみでも栄えることができた。

 さて、これからどうするか。一つ目の選択肢は柔道に似ている。日本を世界基準に合わせて大変革していくのだ。外国語を話せる人材を増やし、海外にモノやサービスを売る。ほとんどの小国はこの戦略を採らざるを得ない。最近では韓国のエンタメ産業の成功例が記憶に新しい。

 他方で相撲型のモデルもあり得る。移民を呼び込み、日本語を習得してもらい、日本社会に溶け込ませる。

 既に日本で暮らす人にとっては、最も楽な選択肢のはずだ。英語を勉強したり、海外企業と侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をする必要もない。これまで通り日本語を使い、大きく社会のルールを変えずに生活が可能だ。

 だが相撲型には反対の声も大きい。いわく、移民受け入れは亡国の始まりだという。日本の文化や伝統が失われ、治安も悪化する。移民によって日本社会が大きく変わってしまう、と。

 果たして外国人力士の受け入れで相撲は大変革を経験したのか。影響が皆無とは言わないが、高見山、小錦、曙、朝青龍、白鵬など、時代ごとに外国人力士が角界を賑わせてきた。今では外国出身の力士が相撲部屋の親方となる事例も増えてきた。相撲という、「日本文化」や「伝統」の象徴とされる領域では、とっくに“移民”が当たり前に受け入れられているのだ。角界は外国人の社会的統合が比較的うまく進んだケースといえそうである。

 昨今の国際化の議論では、柔道型ばかりがもてはやされる。だが本気で日本のモノやサービスを世界基準に合わせようと思ったら、社会は大変革を迫られる。それに我々は耐えることができるのか。それなら相撲型の国際化を目指す方がハードルは低いのではないか。

 もっとも相撲型が可能なのは日本に魅力がある場合のみだ。賃金が安く、労働環境の悪い職場も多い日本は、もはや外国人労働者にとってそれほど魅力的な国ではない。もう少し早く日本全体を相撲型に切り替えておくべきだったのだろう。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2022年12月29日号掲載

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