秋ドラマ「ベスト3」 ファーストペンギンで奈緒から「バカなの?」と罵られ、再認識した俳優の実力
(2)「ファーストペンギン!」(日本テレビ)
この作品も社会派の一種にほかならない。奈緒(27)が扮した主人公のシングルマザー・岩崎和佳が、守旧派勢力やしがらみと戦い、潰れかけた漁船団「さんし船団丸」を立て直した。
森下佳子氏(51)が書いた脚本の結末が良かった。「さんし船団丸」の希望の星だった魚の宅配サービス「お魚ボックス」を全力で潰そうとした元議員・辰海一郎太(泉谷しげる[74])に対し、和佳は自分が船団から去ることで続けさせて欲しいと頼む。辰海も了承した。
一見、和佳の敗北だった。だが、実際には船団の「お魚ボックス」は続き、ほかの船にも広がるのだから、辰海が死守しようとした漁師の支配構造は崩れた。和佳は肉を切らせて骨を断った。和佳の一番の目的は自分の栄華ではなく、漁師たちの生活改善の実現だったから、勝ったのだ。
おまけに和佳はクビをうなだれて浜を去ったわけではなかった。今度は林業の立て直しに取りかかる。漁場を守るには山林を保全しなくてはならないという意味合いもある。どこまでも前向きでエネルギッシュな和佳は痛快な存在だった。
口の悪い和佳から何度も「バカなの?」と罵られた船団社長・片岡洋役の堤真一(58)は相変わらずうまい。この人はバカもインテリも自然にこなす貴重な俳優だ。どちらも演じるのは名優でも至難。例えば本当はインテリなのに故・渥美清さんはインテリ役が苦手だったし、故・丹波哲郎さんはバカ役を不得手とした。
片岡の継子で和佳の相談相手である医師・琴平祐介(渡辺大知[32])を同性愛者という設定にしたのは森下氏による守旧派へのカウンターに違いない。
片岡は祐介に告げられて戸惑い、カミングアウトに反対するが、和佳らにたしなめられた。その後、片岡自身も祐介やそのパートナー・林田楽(大貫勇輔[34])と触れ合ううち、自分の間違った認識に気づく。
暴走族のレディースのような格好の仲買人・重森梨花(ファーストサマーウイカ[32])は心根がやさしく、孤立無援だった和佳を真っ先に助けてくれた。森下氏が「人は見かけではない」と訴えたかったのではないか。
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