タイ在住の企業家・後潟佑哉が元カノの住所を20年ぶりに訪ねてみた結果とは?
彼女の家の表札を確かめると…
コロナが少しずつ落ち着き久しぶりに日本へ帰ることになった。1週間の滞在でたまった3年分の書類手続きをやっつけ、仕事関係のあいさつに追われる日々。タイへ戻る前日になって半日だけぽっこりと空いた時間ができた。そういえば……と、スマホと車のキーを持って出かける。Googleマップのナビに従い車を走らせ国道を右折すると広がる畑が懐かしい風景に出くわした。彼女を乗せて通った道。立ち寄ったコンビニやよく食べた味の薄いパスタ店など、ナビの案内が少しずつ過去にタイムスリップさせるかのよう、20年の時がついこの前の何事もなかったかのような日に戻っていく。
遠くに茶色い屋根が見えた。彼女の家だ。ドクンと鼓動が高く脈打ちハンドルを握る力が強くなる。一方で速度を落とし確かめるように車を進める。角に建っている一軒家。横側から正面玄関へとゆっくりと車を進め、表札に彼女の名字である「林」が書かれていることを願う。文字がかすんだ黒い表札。一瞬思考が止まった。
「小林?」さすがに彼女の名字を間違えるはずがない。ただそこには小林と書かれている。のだから彼女の実家が引っ越して小林さんが引っ越してきたのだろうか?
「って、林から小林ってなんで小さくなってんねん!」と、高揚が笑いになり自分が今何をやっているのかを思い出して腹を抱えて笑った。全ての足取りが消え20年の時を超えて失恋の呪縛から解放してくれた彼女。これからは笑い話として僕の中で生き続けるのだろう。
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