社内外の力を結集しクレーンで世界一を目指す――氏家俊明(タダノ代表取締役社長CEO)【佐藤優の頂上対決】

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オープンイノベーション

佐藤 こうした事業環境の中で、今後はどんなところに注力されていきますか。

氏家 私どももESG・SDGs推進に積極的に取り組んでおり、大きな課題がクレーン車の電動化です。現在のクレーン車はディーゼルエンジンで動きますが、今年4月に世界初となる「電動ラフテレーンクレーン」を発表しました。これは2023年内にも販売を開始する予定です。

佐藤 もう完成されているのですか。

氏家 香川県にある三本松試験場では走っています。普通なら発売前の製品は公開しませんが、来てくださる方にはお見せしています。

佐藤 どうしてですか。

氏家 三つのもくろみがあるんです。まず電動クレーンはまったく新しい製品ですから、動かす環境が整っていない。特に充電器です。急速充電に対応できる充電器でなければまったく間に合わないので、どこかにインフラ作りを助けてほしかった。次に、電動になると、新たな部品サプライヤーの方々の協力も必要になります。エンジン系の部品の業者とは付き合いがありますが、新たな方々と関係を作らねばならない。

佐藤 つまり、一緒にやりましょうと呼びかけるための発表だった。

氏家 その通りです。そしてもう一つはトップマネジメントです。足元では電動化すると値段は今より相当高くなりますので、普通に考えると買っていただけません。でも「この工事はすべてCO2ゼロでやる」といった現場があるなら、電動クレーンが必要になってくる。その決定ができるゼネコンのトップの方々に理解をいただけるよう働きかける必要がありました。

佐藤 それらは成功しましたか。

氏家 すべて期待以上の反応をいただいたと思っています。

佐藤 これはある種のオープンイノベーションですね。

氏家 そうですね。オープンイノベーションという意味では外部の力を借りて、クレーンの自動化も進めています。クレーンは旋回する際にどうしても、吊り荷が揺れてしまいます。特に荷物を止める時に慣性の法則でオーバーアクションしてしまう。巧みなオペレーターはその寸前でクレーンの挙動を調整し、思うところにピタリと止めます。ただ熟練オペレーターはどんどん減っていますから、自動化は喫緊の課題です。そこでこの5年間、日本のAIの第一人者で香川県出身でもある、東京大学の松尾豊先生に紹介いただいたAIベンチャーと研究を進めてきました。

佐藤 AIで簡単にできそうですが、よほど複雑な計算になるんですね。

氏家 さらに知見を広げるため、昨年9月には優勝賞金200万円で、データ分析のコンペを開催しました。2カ月あまりで約千件の応募があり、優勝したのはクレーンとはほとんど縁のない、製鉄系列のITコンサルに所属するデータサイエンティスト4人のチームでした。

佐藤 それは面白いですね。

氏家 他の会社で働いているわけですから、普通では絶対に知り合えない人たちです。

佐藤 社会の中にある潜在力を引き出したということですね。

氏家 そうです。現在、クレーンの旋回は油圧で行っていますが、やがて電気で動かすことになります。それも誰かが面白がって画期的なアイデアを出してくれるかもしれない。

佐藤 それはいいですね。でも氏家さんこそ、面白そうにお仕事をされているのではないですか。氏家さんは私と同年代ですが、この年になると、リタイアしてしょぼくれてしまう人と、これまでの蓄積を生かして第一線で活躍する人とに大きく分かれます。氏家さんは、前の会社のキャリアを生かし、新しい職場で生き生きとされている。すごくいいロールモデルを作っていると思います。

氏家 そうですかね。タダノは長期目標に「LE(Lifting Equipment=抗重力・空間作業機械)世界No.1」を掲げています。私は世界を狙えるポテンシャルがあると確信して、この会社に入りました。今後、外部の力も借りながら、タダノが世界一になるための環境づくり、機会づくりをしていきます。それが私の役割だと思っています。

氏家俊明(うじいえとしあき) タダノ代表取締役社長CEO
1961年東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒、蹴球(ラグビー)部主将。ハーバード大学経営大学院AMP修了。84年丸紅入社。2009年建設機械部長、13年経営企画部長、17年常務執行役員、18年同・輸送機グループCEOを歴任。19年タダノに入社し、代表取締役副社長などを経て21年より代表取締役社長CEO。

週刊新潮 2022年12月22日号掲載

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