社内外の力を結集しクレーンで世界一を目指す――氏家俊明(タダノ代表取締役社長CEO)【佐藤優の頂上対決】
クレーン業界の特質
佐藤 いまタダノでは、海外売り上げの比重はどのくらいですか。
氏家 大型クレーンでは60%前後です。これは80%までいくだろうとみています。
佐藤 そこで氏家さんのキャリアが生かされることになる。
氏家 いまの日本は人口が減少傾向ですし、一方、海外では成長が続いている国がたくさんあります。ですからもう自然に海外の割合が大きくなっていくと思いますね。
佐藤 主な販売先はどんな国ですか。
氏家 やはりアメリカ、ヨーロッパ諸国、そしてオーストラリアですね。
佐藤 先ほどお話に出ましたが、ドイツの会社を買収されていますね。
氏家 2019年に大型クレーンが強いデマーグ社を買収しました。ただ翌年にコロナ禍が訪れ、赤字の同社を黒字化する計画に大きな遅れが生じることになりました。このため、ドイツの法律に基づく事業再生手続きを進めることになり、昨年3月に再出発させました。当社になかった大型クレーンがありますから、今後の成長には寄与するはずです。
佐藤 主要マーケットに中国は入っていないのですか。
氏家 実は中国には一度入り、いまはほぼ撤収を終えたところです。
佐藤 それは意外です。
氏家 中国の市場規模はここ数年で急速に縮小しています。クレーンは、非常にライフタイムが長い製品です。30年から50年はもつ。同じ建設機械でもブルドーザーやショベルは、地面と常に“戦っている”ために摩耗が激しいので、5~6年程度で部品交換や修理の必要が生じます。するとその機械を維持するより買い替えるモチベーションが生まれる。一方、クレーンは同じ建設機械でも地面と戦っていないので摩耗部分は少なく、部品交換もあまり必要ないのです。
佐藤 だから飽和状態になる。
氏家 はい。アメリカや日本には50歳のクレーンから、40歳、30歳、20歳と全部あります。でも中国は急成長に伴い一挙に使用台数を増やしたので、若い機械が非常に多い。また3年前くらいまでは8万台の需要がありましたが、現在は2万台を切っています。それでも中国を除く世界の需要は1万台を切る程度なので大きな数字ではありますが。
佐藤 中国の経済成長は鈍化しています。
氏家 また中国国内のクレーンメーカーの価格も安く、知的財産権の考え方についても日本とは感覚が違っているようですから、どうしても現地の会社が強くなります。
佐藤 撤収を決めたのはいつですか。
氏家 2016年です。現在は中国での生産は止め、日本からの輸出販売のみを行っている状態です。
佐藤 いまは経済安全保障で、経済合理性とは別に政府の介入がある時代です。中国はその主たる対象国ですから、多くの企業が中国とは距離を置き始めています。それを考えると、早い時期での撤収はマイナスではなかったのではないですか。
氏家 そうですね。私はその決定後に入社しましたが、正しい判断だったと思います。
佐藤 販売先は建設会社ですか。
氏家 いえ、主にはレンタル会社です。建設会社がクレーンを所有してオペレーターを雇用しているケースは稀で、通常は工事に必要な工程だけレンタル会社から機械とオペレーターを確保します。
佐藤 クレーンの耐用年数が30年~50年となると、中国のみならず、なかなか買い替え時期が来ませんね。どういう時期に売れるのですか。
氏家 景気がよくなり工事現場が増えれば伸びます。具体的には中古市場の値段に左右されるんです。日本のオーナーさんなら、次の工事がいつ始まるかを見て、アジアの中古市場で値段が上がると、手持ちのクレーンを売って新品に買い替えます。クレーンは長持ちするので、それまで待つことができます。
佐藤 そうすると、売り上げの振り幅が大きそうですね。
氏家 はい。中古市場が活況を呈すると一気に買い替えが進みます。ですから売り上げの谷は深く、回復した時の山も高い。
佐藤 谷の時に耐えられる基礎体力が必要になる。
氏家 そこが大事です。また山になったからといって、どんどん投資したり人を増やしたりすると、その後が怖い。経営者としてはその判断が難しいところです。
[3/4ページ]