「エルピス」は秋ドラマで1番面白いという声もあったが…マスコミの評価と視聴者のニーズにズレ?
恵那の堕落、拓朗の成長
12月19日放送の第9話での恵那は、大洋テレビという小さな体制に組み伏せられていた。「フライデーボンボン」にいたころは敢然と冤罪取材に取り組んでいたが、その功績もあって、報道局に戻り、「NEWS8」のキャスターになると、牙を抜かれた。立場の維持を第一に考えているように見える。もう冤罪取材もしていない。
同志だった拓朗が刑事の平川勉(安井順平[48])を脅したとしてクビになったことも後になって知った。その後も言葉を掛けていない。
恵那は画面を通じて世間に正義を訴え掛けているつもりかも知れないが、身近な正義も果たせていない。ただし、そんな自分が正しいとは思ってはないらしく、体は変調をきたしている。クスリ漬けだ。
恵那がずっと正義を貫いたほうが、分かりやすく、ウケる物語になったかも知れない。ただし、それではウソっぽくなる。大半の人はそれほど立派ではないし、たくましくもない。恵那の変節には説得力があった。
一方、クビになった拓朗はあるべき自分を見つけかけている。真実の発見を続けている。拓朗が9歳の時に亡くなった社会派弁護士の父・陽介 (山下徳久[46])のように。中学生の時にクラスメイトがいじめで自殺した問題からも逃げなくなった。もっとも、本人は自分の変化に気づいていない。
恵那と拓朗はまだ暗中模索を続けるのだろう。26日放送の最終回で2人がどんな自分に辿り着くのか見ものだ。
このドラマは社会派エンターテイメントと銘打たれているが、日本は社会派ドラマがなかなか根付かないという問題もある。このドラマと同じ渡辺あや氏(52)が脚本を書いたNHK「今ここにある危機とぼくの好感度について」(2021年)など評価の高い作品はあるのだが、視聴率に結びつきにくい。
「ハッピー・バレー 復讐の町シリーズ」(2014年~)や「刑事モース~オックスフォード事件簿~」(2013年~)などが次々とヒットする社会派ドラマの本場・イギリスとは環境が異なる。
日本では考えさせるドラマすら視聴率が獲れない。仕事とは何かを考えさせた春ドラマ「正直不動産」(NHK)は好評だったものの、低視聴率に終わった。TBS「半沢直樹」(2013年、2020年)のように手に汗握る活劇が大当たりやすい。
もっとも、実のところ観る側には視聴率なんてどうでだって良いのだ。どれくらい観られているのかの目安に過ぎない。質とは別だ。
結末を暗示するのはエンディング映像か
話を「エルピス」に戻すが、質はすこぶる高いドラマであることは間違いない。マスコミ側にいることを抜きにしてもそう確信している。
ドラマの出来を決めるのは「1に脚本、2に俳優、3に演出」と古くから国内外で言われるが、その3つとも出色だからだ。長澤がうまい人だということは広く知られているが、さまざまな顔を巧みに見せる眞栄田の演技力にも目を見張った。
最終回の展開は予想が付かないものの、エンディング映像が結末をずっと暗示している気がしてならない。恵那がケーキを焼く。それを「フライデーボンボン」のヘアメイク担当・大山さくら(三浦透子[26])が画面越しに観ている。死刑囚・松本を救いたくて、拓朗に取材を依頼した人物だ。
さくらは市販のケーキを食べたり、食べなかったり。一貫しているのは恵那を観る目が怖いくらいに冷めきっているところ。それはマスコミへの不信を表すのか、それとも恵那への軽蔑のまなざしか。
大洋テレビを辞めた斎藤は大門の後継者になるようだ。一方、恵那は別れたはずの斎藤への思いを断ち切れていない。この感情が結末に影響をおよぼすように思う。