「エルピス」は秋ドラマで1番面白いという声もあったが…マスコミの評価と視聴者のニーズにズレ?

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 秋ドラマが間もなく終わる。多くのマスコミが秋ドラマのベストワンに長澤まさみ(35)主演の「エルピス-希望、あるいは災い-」(フジテレビ系、月曜午後10時)を推し始めた。ところが視聴率は振るわない。なぜだ?(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)

マスコミの評価と視聴率の採点にズレ?

 筆者も秋ドラマのベストワンには「エルピス」を推したい。現在はフジ系の関西テレビに勤務する同作のプロデューサー佐野亜裕美氏(40) の古巣であるTBSのドラマ制作者ですら、放送開始早々に「やられた。秋ドラマのナンバーワンになる」と言っていた。

 ところが視聴率は振るわない。第9話(12月19日放送)までの平均値は世帯が6.4%、個人が3.5%。民放が重視するコア(個人のうち13~49歳)も2%前半で、「silent」(フジ)の約半分程度。録画視聴率も伸び悩み、上位に食い込んでいるのはTVerの再生回数のみだ。

 なぜ、評価と視聴率に差があるのか。ドラマを評するのは主にマスコミで、「エルピス」の舞台もマスコミである民放(大洋テレビ)。どうしてもマスコミの感覚で下される評価が、視聴者の思いとズレているのだろうか。

「エルピス」はマスコミの内側にいると評価したくなる点がある。まず民放の暗部を果敢に描いているところだ。局内外で身内批判と受け取られかねないため、これは極めてやりにくい。

 例えば長澤が演じる主人公で大洋テレビのアナウンサー・浅川恵那は、深夜情報バラエティ「フライデーボンボン」のディレクターだった岸本拓朗(眞栄田郷敦[22])と冤罪事件の真相を追い始めるが、本来それをすべき報道局は一切協力しなかった。

 情報源として世話になっている警察や検察、政界から睨まれる恐れがあるからだ。恵那の元交際相手でエース記者だった斎藤正一(鈴木亮平[39])に至っては冤罪取材を封じ込めようとする始末。

 現実にあっても不思議ではない話であるものの、ドラマには盛り込みにくい。大抵の制作者は怯むはず。それを映し出したのだから、マスコミ側にいる人間は拍手を送りたくなってしまう。

 登場人物たちにも真実味がある。これにもマスコミ側の人間は舌を巻く。

 デタラメ男を装っていたが、本当は気骨ある「フライデーボンボン」の元チーフプロデューサー・村井喬一(岡部たかし[50])、整理下手でも優秀な「首都新聞」政治部記者・笹岡まゆみ(池津祥子[53])、ゴロツキのようだが、正義感は強い「週刊潮流」編集長・佐伯(マキタスポーツ[52])。いずれも実在しそう。相当、取材を重ねたに違いない。

冤罪ドラマと思われたことも損だった

 大洋テレビの報道マンたちが正義より、突出しないことを優先していることなど、辛辣なマスコミ批判も織り込まれている。これも描写は難しい。やはり評価したくなる。

 だが、ひょっとしたら多くの視聴者にはマスコミの暗部や実態などどうでもいいことなのかも知れない。マスコミ批判もその内側にいる人間は胸を突かれるが、視聴者の中にはマスコミの良心など最初から信じてない人もいるだろう。

 視聴者が民放を含むマスコミにどれだけ興味があるのか。それがドラマへの関心度にも結びついていたはずだ。

 また、当初は単純な冤罪ドラマだと誤解する人がいたこともマイナスになってしまった気がしてならない。

 冤罪ドラマは物語のA面に過ぎない。同等かそれ以上の厚みを持っていたのがB面。それは恵那と拓朗が取材を進め、社内外で戦ううち、あるべき自分に辿り着くまでの軌跡だ。

 恵那と拓朗が追ったのは2004年からの3年間に少女3人が殺された事件の真相。犯人とされた元板金工の松本良夫(片岡正二郎[60])は死刑が確定している。

 その矢先、また少女が殺された。手口が似ている。同一犯とすれば、松本は獄中だから無罪だ。恵那と拓郎は被害者遺族のインタビューなどを撮り、「フライデーボンボン」でゲリラ放送する。スリリングな展開だった。

 単純な冤罪ドラマではないから、11月7日放送の第3話で早々とアンティークショップを営む長髪の男(永山瑛太[40])が真犯人だと暗示された。のちに不動産会社社長・本城総一郎の長男・彰と分かる。

 本城総一郎は元警察庁長官で副総理・大門雄二(山路和弘[68])の有力後援者で、彰を守っている。恵那と拓朗の前にある分厚い壁は大門。権力と体制の象徴である大門に2人が屈せず、倒せるかどうかが終盤のカギになっている。

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