女優「野村昭子さん」、演技も人柄も飾らない「渡る世間は鬼ばかり」「赤ひげ」の名脇役【2022年墓碑銘】
満ちては引く潮のように、新型コロナウイルスが流行の波を繰り返した2022年。今年も数多くの著名な役者、経営者、アーティストたちがこの世を去った。「週刊新潮」の長寿連載「墓碑銘」では、旅立った方々が歩んだ人生の歓喜の瞬間はもちろん、困難に見舞われた時期まで余すことなく描いてきた。その波乱に満ちた人生を改めて振り返ることで、故人をしのびたい。
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野村昭子(本名・増見昭子)さんの名前は浮かんでこなくても、愛嬌のある顔には見覚えがあるだろう。
女優として約70年にわたり活躍。1998年から出演したテレビドラマ「渡る世間は鬼ばかり」は、代表作のひとつだ。
藤岡琢也さん演じる小料理店「おかくら」の主人・岡倉大吉の妻・節子に扮する山岡久乃さんが病気のため降板。野村さんは節子の親友・青山タキとして、店を手伝う役で登場した。
藤岡さんは店の主で、5人娘の父親。まさにドラマの要だが、病に倒れ2006年、宇津井健さんに交代、宇津井さんも14年に他界する。
同番組のプロデューサー、石井ふく子さんは振り返る。
「野村さんは大役だ、と喜んで下さり、番組にすぐに溶け込んでくれました。山岡さん、藤岡さん、宇津井さんと亡くなり、おかくらの雰囲気を引き続き伝える大切な役を担うようになります。店を守り、娘たちのお父さんでもお母さんでもある存在になったのです」
しんどいはずなのに
脚本家の橋田壽賀子さんは21年に永眠。「渡る世間は鬼ばかり」は19年のスペシャル番組が最後となる。当時、野村さんはすでに90代。
「店の場面だけに立ったままになることが多い。私はそれが心配で座るよう勧めても、大丈夫と言うのです。しんどいはずなのに顔に出しません。いつもせりふをきっちり覚えてきました。礼儀正しく嫌みもない。橋田さんの信頼も厚かった。料理がよりきれいに見えるように盛りつけをさりげなく直したり、スタッフにも気を使い、現場を支えてくれました」(石井さん)
27年、東京・神田の生まれ。東京薬学専門学校女子部(現・東京薬科大学)を卒業、薬剤師の資格を持つ才媛だ。病院に勤めながら、演劇に関心を持つ。49年、俳優座養成所の第1期生に。
「桜の園」や「三人姉妹」などの舞台に出演、使用人やおばさんの役が多かった。
演劇評論家の岩波剛さんは言う。
「原点は舞台女優であることをもっと知られていい。スターとは違うタイプ。丁寧な演技が魅力です。知的なのにそれを出さず、気さくな中に上品さがありました」
黒澤明監督の「赤ひげ」(65年)では小石川養生所で働く女性を好演した。
黒澤監督の助手として活躍した野上照代さんは言う。
「黒澤監督はおばさんが世に持つ力を認め、大切に考えていた。野村さんはすでに舞台で評価され、おばさんらしさに無理がなかった」
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