敗れてなおMVPに輝いたオリバー・カーン なぜ遅咲きの彼が歴史的なGKになれたのか(小林信也)
落胆と絶望
ロナウドが先制ゴールを決め、スタジアムから遠い歓声が聞こえた時、群衆の踊りは一段と激しさを増した。私は、日本で働くブラジル人たちの輪の中でもまれながら、W杯決勝で母国がゴールを決める感激と、優勝の興奮を共に味わった。
ブラジル人たちの歓喜の反対側に、ドイツの落胆とカーンの絶望があった。
前半はファインセーブを重ね、0対0で折り返した。後半、リバウドのシュートを弾いたところをロナウドに決められた。さらに、リバウドがスルーしたボールをロナウドに押し込まれ、決定的な2点目を奪われた。
深夜のニュースで、敗戦直後、芝生に腰を落とし、ゴールポストを背に茫然とするカーンの孤独を見た。カーンのその姿は、02年日韓W杯で最も印象的な光景と言っていいだろう。
カーンは、大会を通じて8得点を挙げ得点王に輝いたロナウドを抑え、ゴールデンボール賞(最優秀選手)に選ばれた。
GKは「守るべき人」だ。が、点を奪われても人々の胸を打つGKが歴史に名を刻む。カーンは、敗れてなお尊敬を集める歴史的なGKとなった。
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