安倍元総理とも親交が深かった「葛西敬之さん」、国鉄分割民営化を成し遂げるまでの暗闘【2022年墓碑銘】

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熟考して決断

 95年、社長に就任。

 ジャーナリストの小宮和行氏は思い出す。

「熟考して決断し行動に揺らぎがなかった。東海道新幹線の優位下でも航空機との競争に目を配った」

 東海道新幹線の品川駅開業、車両性能の統一によるさらなる高頻度運行、超電導リニアの実験線建設などと次々に成果を出した。

 国鉄改革の全体像を記録に残すことにも応じている。聞き取りを行った東京大学名誉教授の御厨貴氏は言う。

「人と交渉するのが好きで得意だと伝わってきました。話が具体的で戦記物を聞いているようでした。自慢話ではなかった。人を引きつける一方、ニコッと笑いながら容赦なく斬る面も感じました。権力がどういうものか、どう使うものなのかわかっていた。調整型ではなく戦闘的なトップですね」

 2004年に会長に就任した頃から保守の論客としても注目される。

付和雷同しない姿勢

「財界」主幹の村田博文氏は言う。

「現実を直視して大局を俯瞰する人でした。国鉄の経験から政治が経営に介入する危うさを理解したうえで、国がしっかりしていることが全ての根本ととらえた」

 経営評論家の高木敏行氏も言う。

「JR東海を創ってきた自信も感じさせ、財界全体が小粒になるなか際立つ存在。核心をつかむのが巧みです」

 中国市場に期待する日本企業とは一線を画した。

「中国に新幹線を売れば、先方が技術をコピーして自国のものと言い出し、事故が起きれば日本のせいにするはずだと危険視した。付和雷同しない姿勢は昔から一貫しています」(屋山氏)

 リーダーの育成を目指し、全寮制の中高一貫校「海陽学園」の設立にもかかわる。

 14年に名誉会長になるが、18年まで代表取締役として社の顔に。着工したリニア中央新幹線の技術は日本独自のものだと重要性を説いた。

 5月25日、間質性肺炎のため、81歳で逝去。

 親交の深かった故・安倍晋三元首相は「国士だった」と悼んだ。葛西氏は豪胆なようで、「恐れを抱く者は大きな失敗をすることはありません」と常に自戒していた。

デイリー新潮編集部

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