ポーランドのクリスマスマーケットで見た笑顔、隣国ウクライナの人々への親身な行動(写真家・在本彌生)

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幸せ溢れるクリスマスマーケット

 ポーランドのクリスマスマーケットで供される食べ物で特徴的なものといえば、ソーセージ、ローストなどの豚肉の料理や焼きチーズだ。気温が低い屋外ゆえ、香りと湯気の立つものには思わず惹きつけられてしまう。ホットワインでまずは乾杯、体が温まってきたところで名物をつまみつつ出店を見て歩くのが大人の楽しみ方。もちろん、ホットチョコレートやホットベリージュースなどの甘くて温かい飲み物もあるので、お酒が飲めない人、子供たちにはこちらがおすすめだ。因みに、ツリーを飾るオーナメントとしてお馴染みのガラスボールは、ヨーロッパで流通しているものの多くがポーランド産だそう。繊細で細かい絵付けや、草花をあしらった模様の描かれたもの、珍しい形のガラスオーナメントを雑貨店でもよく見かけた。

 美しい冬のポーランドでクリスマスマーケットを巡り、何より強く印象に残ったのは人々の朗らかで幸せに包まれた笑顔だった。親しい友人、家族、恋人たちが自由に集い語らうことができるのは平和な社会があるからこそ、そう実感せざるを得ない情勢が今あることを忘れることはできない。

他人事とは思えない

 今年2月から隣国のウクライナが戦禍にあるため、ポーランドの人々と会話をするにつけそのことが話題にのぼった。以前から進学、就労のためにポーランドで暮らすウクライナ人は多かったというから、実際の距離感もさることながら、精神的な距離が近い国同士といえるのだろう。

 戦争が始まって以来、やむを得ず祖国を逃れ避難して来たウクライナの人々を、ポーランドの社会全体で受け入れようという姿勢があり、一般家庭、個人のレベルでもその意識は強く持たれている。個人宅の部屋を避難民の一時的な滞在先として開放することもあり、急場をしのぐための食料、毛布などの生活用品、救援物資の多くが一般の市民の善意で集められた。

 歴史を振り返れば両国は同じ国だった時代もある上、ポーランドは過去に体験してきた痛ましい戦争、迫害、抵抗の時代を経て、現在の平和を手に入れた経緯があるのでなおのこと、ウクライナの人々の今の状況を慮る気持ちは大きい。現地で会話した多くの人々から、ウクライナの今の状況に関して「他人事と思えない」「彼らのためにできる限りのことをせずにはいられない」という誠意ある言葉を幾度となく聞いた。真心からもたらされるその声に、平和を願うポーランドの人々の精神性を感じずにはいられない。

取材協力 ポーランド政府観光局

在本彌生(ありもと・やよい) 写真家
1992年5月、アリタリア-イタリア航空に入社。2003年、初個展。2006年、初写真集の出版後、アリタリア航空を退職。写真集『MAGICAL TRANSIT DAYS』(アートビートパブリッシャー)、『わたしの獣たち』(青幻舎)、『熊を彫る人』(小学館)。共著に『中国手仕事紀行』(青幻舎)、『CALICOのインド手仕事布案内』(小学館)。無頼の果物好きとしても知られ、特にパイナップル、マンゴー、パッションフルーツなど南国の果物に目がない。

デイリー新潮編集部

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