この年末も3番組で…民放テレビ局が「警察密着番組」を作りたがる理由
ルーツはテレ朝の「水曜スペシャル」
もはや民放と切り離せない「警察密着特番」は1978年に始まった。最初に企画したのはテレビ朝日で、「警視庁潜入24時!!」という90分特番だった。水曜午後7時半から同9時までの「水曜スペシャル」で流された。
「水曜スペシャル」は週替わりでさまざまな特番を放送していた。売り物は「川口浩探検隊シリーズ」だったが、「警視庁潜入24時!!」も人気を集めた。本物の捜査現場の映像に視聴者は惹かれ、高視聴率が続いた。
となると、他局が指をくわえて見ているはずがなく、次々と参入した。警視庁以外の県警本部も取材するようになった。
「警察密着特番」はドキュメンタリー風のタイトルでありながら、刑事をあだ名で呼んだり、効果音を多用したりするなどエンタテイメント色があるのも特徴として挙げられる。しかし、それは不思議ではない、そもそもルーツがエンタメそのものだった「水曜スペシャル」なのだから。
目下のところ各局の悩みは他局とどう差別化するかだろう。あまりにも似ている。どの局の「警察密着特番」なのか区別が付きにくい。
各局とも中心は薬物の所持と使用、盗撮、酔っぱらいのケンカ、無免許と飲酒運転などの交通事犯だから、どうしても似てしまう。このままでは飽きられる怖れもある。
それもあってか、フジは11月27日の特番に米ロサンゼルス市警の永田有理さん(42)をスタジオに登場させた。「警察密着特番」によってスターになったリーゼント刑事こと元徳島県警の秋山博康氏(62)も招いた。
「警察密着特番」は全編ビデオで構成するというのが通り相場だったものの、最近はスタジオ部分を設ける特番も増えている。その分、コストは高くなるが、新味を出すためには仕方がないだろう。
一方、テレ東は26日の特番で東京・新宿歌舞伎町の少年たちと薬物の関係を取り上げる。このところ「トー横キッズ(歌舞伎町の新宿東宝ビル周辺に集まる少年少女)」が話題だから、やはり新味になるはずだ。
面白いことに年末までは「警察密着特番」が集中的に放送されるが、年始になった途端、きれいに消える。昨年もそうだった。
年末にはあるが、年始にはない
年末は犯罪が増え、警察は特別警戒態勢を敷く。視聴者側の防犯意識と犯罪への関心も高まるから、「警察密着特番」の放送にはおあつらえ向きなのだろう。
一方、年始も犯罪は多く、特別警戒態勢は続くものの、視聴者側は正月から覚せい剤の逮捕劇や盗撮犯など観たくないだろう。放送がないのはうなずける。
民放と取材対象である警察の双方にメリットがあり、一見、理想的な特番に映る。しかし大きな問題点がある。取材陣が密着している警察官が目の前で事件を起こした時にどうするかだ。
2013年、鹿児島市内で警察官に取り押さえられた会社員男性(当時42歳)が死亡した。警察官はTBSの「警察密着特番」の取材対象で、同局の委託を受けた制作会社が撮影中のことだった。
警察官は「ケンカです」との通報によって駆け付け、会社員男性を取り押さえ、胸腹部圧迫による低酸素脳症で死亡させた。現場にいた警察官2人は業務上過失致死罪に問われ、罰金刑が確定した。
事件後、鹿児島県警は制作会社に事件を撮影したビデオの任意提出を求めた。同社は拒否したものの、2014年に捜索差し押さえ令状に基づいてビデオは押収されてしまった。
制作会社は県警に抗議した。TBSにはビデオの所有権がないため、抗議はしなかったものの、遺憾の意を表した。
堅苦しい話になるが、取材で得たものは報道目的以外には使用してはならないというジャーナリズムの大原則がある。極端な例を挙げると、取材だと思って記者に話したことが、警察や利害対立者、恐喝者などに流出したら、大変なことになるからである。
「警察密着特番」は警察側と「何があっても取材ビデオは求めない、渡さない」という取り決めを交わすべきだ。カメラは捜査に役立てることを目的にまわしているのではないのだから。
また、全国で警察官による不祥事が絶えず起きている事実にも特番内で触れたほうがフェアなのではないか。公式発表されている懲戒処分の内容をテロップで表示する程度でもいい。今のままでは警察の広報番組と言われても仕方がない。
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