「愛媛農業アイドル自殺訴訟」勝訴した社長が語る「テレビ報道」への疑問 「なぜ『ミヤネ屋』は判決を報道しないのか」
「お父さんは悪者なの?」息子が流した大粒の涙
ネット上の誹謗中傷は、佐々木氏の子供にまで及んだ。何者かがSNSから子供の写真を探し出し、「人殺しのクソガキ」とFacebookに“晒した”のだ。その時ばかりは警察に相談に行ったが、「Facebookは海外企業が運営しているので、国内法では対応できない」と取り合ってくれず……。子供には1年ほどしてから本当のことを打ち明けたが、小学4年生の息子は父親が悪者になっていると聞いて、涙をぼろぼろ流して取り乱したという。
本業である農園経営への打撃も大きく、取引先は次々とフェードアウト。およそ10人の従業員が2人まで減ったが、なんとか倒産せずに会社は守った。そこまで耐え忍んだのも、裁判を勝ち抜き、名誉を回復したいという一心からである。
「最初は遺族に気を遣って、はっきりと申し上げられなかったのですが、萌景さんが亡くなったのは、楽しみにしていた全日制高校への進学を家庭の事情で諦めざるを得なくなり、絶望したからと考えたほうが自然なのです。裁判で私たちが提出したLINEのやり取りなどの証拠も、それを裏付けるものでした。『辞めるなら1億円払え』なんて、絶対に私は萌景さんに言っていないのです」
裁判中に佐々木氏は離婚を考えることもあったという。しかし妻は、「絶対負けないで」と最後まで夫を支えた。一審の最中、和解を検討した時も「向こうがおかしいのに、そんなのおかしい。最後まで戦い抜いて」と叱咤激励したのは妻だった。
名誉が回復された日のこと
そして迎えた今年6月の一審判決。原告の訴えはすべて棄却された。過重労働もパワハラも「1億円発言」も認定されなかった。12月21日の高裁判決も同様で、原告の控訴は棄却。原告側は19年7月に、別途、萌景さんへの未払い賃金8万円の支払いを求める訴訟を起こし最高裁まで争われたが、すべて佐々木氏が勝訴している。
一審判決は新聞各紙が報じた。ほとんどが判決内容を簡単にまとめただけの数行のベタ記事であったが、佐々木氏は家族や支援者らと涙を流して喜んだ。
「ようやく名誉が回復されたんだと心が晴れました。あの時はそれで満足してしまったのです」
だが、時間が経過するにつれ心の中にもやもやとしたものが広がり出した。「なぜテレビはニュースにしてくれないのか」。テレビが報じた一審判決は、報道番組が数えるほどで扱いはストレートニュースだった。
「提訴の時、ワイドショーはあれだけセンセーショナルに報じたのですから、結末をきちんと報じる責任があると思うのです。当時、遺族側が発信した内容に基づいて報道したというマスコミのスタンスも理解しています。でも、その内容が間違っていたならば? その報道によって傷ついた人がいたならば? 遺族への配慮で放送できないという理由は当たらないと思うのです。私たちは遺族からいわれなき責任を転嫁され、訴えられたのですから」
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