【ウクライナ戦争】キッシンジャー元国務長官の訴えも空しく…朝鮮戦争の休戦モデルが参考に

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「ウクライナの和平交渉を急げ、さもなければ核兵器が飛び交う第三次世界大戦は避けられない」

 キッシンジャー元国務長官は、米誌「スペクテイター」12月17日号に寄稿した論文「世界大戦を回避する方法」の中でこのように訴えている。

「ロシアとウクライナの戦闘はロシアと北大西洋条約機構(NATO)との間の直接衝突を誘発する」と懸念するキッシンジャー氏は「ウクライナの自由を確保し、中欧と東欧のための新たな国際構造を構築すべきだ」とした上で「ロシアがこのような秩序の中で居場所を見つけられるようにも配慮すべきだ」と提言している。

 残念ながら、この提言がウクライナや西側諸国に受け入れられることはないだろう。

「プーチン亡命」への疑問

 西側諸国は停戦交渉の代わりにウクライナへの武器支援を強化する一方だ。

 ウクライナ軍は、ロシア軍に占領された一部地域の奪還に成功しており、「ロシア軍の武器弾薬が枯渇しつつある」との観測も流れている。このまま攻勢を続ければ「憎きロシアを敗北させることができる」との見方が生まれている。

 西側メディアはさらに「ロシア全土で厭戦気分が蔓延している」と喧伝し、「プーチン大統領は亡命に追い込まれる」との報道まで出ているが、はたしてそうだろうか。

「ウクライナへの軍事侵攻を巡るロシア国内の反応は、エリート層と一般市民の間ではまったく異なる」(11月17 日付日本経済新聞)

 このように主張するのはトレーニン・ロシア国立高等経済学院教授だ。

 西側メディアが伝えるロシアの世論はエリート層の意見が反映されがちだ。彼らは海外で保有していた富を失ったことで不愉快な思いをしているが、一般の国民は正反対のようだ。西側諸国の制裁のせいで、多くの国民はロシアとウクライナの戦いではなく、ロシアと西側諸国との衝突だとみなし始めている。その結果、まるで戦時下のように国民が団結し、国の指導部を支える雰囲気が芽生え始めているという。

 トレーニン氏は12月8日 に行われたNHKのインタビューでも「第2次世界大戦以来となる国民の動員が社会の空気を一変させた。プーチン大統領は世論を慎重に見極めながら政権運営に当たっている」と述べ、政権基盤が安定していることを強調している。

 筆者が驚いたのはトレーニン氏が「今起きていることは第1次世界大戦に匹敵する戦争だ。仮にロシアがこの戦いに負けるとしたら、私たちが今見ているロシアは存在しなくなるかもしれない。これはロシアという国家の存在をかけた戦いであることを理解しなければならない」と強調したことだ。

 かつて冷戦時代、米国とソ連は紛争や対立を2国間で解決する努力を行っていたが、現在、双方の妥協はもはや不可能となっている。冷戦終了後に「一極支配」を手に入れた米国にとって、現在のロシアは対等の競合相手ではなくなっており、ロシアに妥協することは「ありえない選択肢」になってしまった。

 前述のキッシンジャー氏は「ロシアが長年堅持してきた『独立した外交政策を貫く』という大原則を台無しにする行動を米国が取り続けてきたことが、今回のロシアのウクライナ侵攻の遠因だ」と指摘している。

 米国への積年の恨みを募らせるロシア政権内では「反ロ基地と化したウクライナの国家としての存在自体が認められない」との風潮が高まっており、キッシンジャー氏の提言はロシアからも拒否される可能性が高いと言わざるを得ない。

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