クリーニング業界の苦境 大手業者は「値上げはできない。付加価値で利益を出すしか」

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 先日、都内に住む50代男性は、久しぶりに近所のクリーニング店を訪れた。いつものように、「衿はのりなしでお願いします」とワイシャツを出すと、「すみません、350円に値上げしました」と言われ、仰天した。いつのまにか100円ほど上がっていたというのだ。聞けば、「人手不足と原油高で、値上げせざるを得ないんです」と店主。以前は、即日引き渡しが可能だったが、人手不足の影響で仕上がりまで1週間もかかると言われた。業界に何が起きているのか。

 今年4月、全国クリーニング生活衛生同業組合連合会は、「ご存じですか?クリーニングがこんなに石油に囲まれていることを」と題するポスターを作成している。ドライクリーニングでは、主に石油系溶剤を使用する。衣類を乾燥し、アイロンで仕上げる蒸気は、重油や灯油をボイラーで燃やして発生させている。ハンガーや衣類を包むポリカバーは石油商品で、衣類の集配車はガソリン代がかかる、という内容で、すべて石油に頼っていることをアピールしたものだ。

付加価値に力を入れる

 原油価格は、1990年代は1バレルあたり12~20ドルで推移していたが、2000年代に入ると急騰し、2008年には90ドルを突破。2011年は100ドルを超え、2022年も100ドル前後となっている。90年代から5倍以上に高騰しているのだ。

「これに加えて、電気代の値上げ、コロナ禍の影響もあります。複合要因でかなり厳しい状況になっています」

 と語るのは、全国で5300店を展開する業界最大手「ホワイト急便」の広報担当者。

「新型コロナの感染拡大が始まった2020年は、会社の出勤が制限されてビジネスクリーニングが大幅に落ち込みました。特にワイシャツの需要は半減しました。今でもコロナ禍以前と比べ2割くらい落ち込んでいます。帝国データバンクの企業情報を見ていると、原油高騰による資材の値上げとコロナ禍で採算が合わず、廃業するクリーニング店が出ています」

 実際、120店舗を展開する「伊勢津ドライ」(大阪府交野市)が2021年3月、テレワークなどの影響で売り上げが激減し、民事再生法の適用申請を行った。負債総額は7億5000万円。今年11月には、60店舗を展開する「張分」(岐阜県多治見市)が自己破産を申請した。負債総額は5億4800万円だった。

 全国のクリーニング店舗数は、1997年の16万4225店をピークに年々減少を続け、2015年に10万を切る9万7776店、2020年は8万1541店にまで減っている。その後、さらに減少していることは間違いない。

「利益を出すには値上げをすれば良いのですが、うちでは値上げはしていません。というのは、お客様も物価の上昇や電気代などの値上げで苦しいからです」(同)

 では、どうやって採算を維持するのか。

「やはり、お客さんに喜んでいただけるよう、プロにしかできない付加価値に力を入れています。ドライクリーニングでは難しかった汗取り加工や水を弾いて染みが付きにくい撥水加工、スラックスなどの折り目の裏側に樹脂を注入して、折り目を長期間保つ愛情プリーツ加工などがあります」(同)

 さらに同社では、有料でのシミ抜きに力を入れていて、社内で「シミ抜き競技会」を開催して技術の研鑽を積んでいるという。様々な溶剤を用い染色補正まで行う特殊コース(5000円~5万円)まである。

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