娘を迎えに行って目撃した妻の裏切り…44歳夫が始めた“禁断の復讐”で今も悩み続けるワケ
リハビリか、復讐か
数日後、真琴さんから連絡があり、ふたりはまた会った。真琴さんは、腹は立つけど経済的なことを考えると離婚はできないと力なく言った。梶原夫婦は康晴さんたちより少し年上で、当時、16歳と13歳の子どもたちがいた。
「納得はできないけど、どうしたらいいかわからないと真琴さんははらはらと涙をこぼしました。その姿になぜか僕はムラムラときて、彼女をベッドに押し倒してしまったんです。やめてと言っていた彼女が、急におとなしくなってむしろ主導するかのように変わっていって……。それも怖かったけど、お互いに相手を怒りのはけ口にしたのかもしれません。絶望的なことをしていると思いながら、逆に燃えていくんです。彼女もそうだったと思う」
夫婦が入れ替わった形で関係をもっているなんて、まるでドラマのようだ。ドラマだったら「都合がよすぎる話」にされてしまうかもしれない。だがこういうことが起こるのが現実である。
「真琴さんは、『私だって不倫ができるということですよね』とやけに元気になって帰っていきました。その後、夫に証拠をつきつけたようです。梶原氏は土下座して謝ったとか。真琴さんは『形だけだから』と、僕と妻に内容証明郵便を送りつけてきました。それを見て初めて、妻の不倫を知ったということにして、僕は妻を責めました。妻は『あなたが私を満足させてくれないから』と逆ギレ。これには傷つきました。もうちょっとで『真琴さんは満足してくれたよ』と言いそうになって」
妻が今も気持ちは康晴さんにあると言ってくれたら、彼は再構築するつもりだった。だが妻は逆ギレしたままだった。離婚という一言を口にすると、『離婚したいならするわよ』とさらにキレた。
「家庭内の冷たい空気は娘によくない。そう思ったので、離婚はともかく別居しようと。妻はワンルームマンションを借りて出て行きました。娘は僕と一緒にいると言ってくれた。ママに連絡して好きに会えばいいよと言うと、ママは自分のことしか考えてないよねと寂しそうに言った。なんだか娘がかわいそうでたまらなかった」
梶原家は元の鞘に収まったようだが、康晴さん夫婦は今も別居したままだ。娘は来春、高校生になる。そして康晴さんと真琴さんは今もときどき会っている。
「私たち、それぞれパートナーへの復讐心で会っているのかしらと真琴さんが言ったことがあるんです。最初はそうだったかもしれないけど、今はどうなんだろう。人間的な情はあるけど、僕は真琴さんに恋しているわけではない。向こうもそうでしょう。裏切られた心の痛手をなんとか回復するためのリハビリをしているのか、彼女が言うように長期にわたる復讐をしているのか……」
真琴さんに会えば、当時のことを思い出す。そうすれば怜子さんのことも心に浮かぶ。それでも真琴さんに会い続けるのはなぜなのだろう。会社では部署もフロアも違うので、あまり妻と顔を合わせることはないと康晴さんは言った。実は彼は今も怜子さんに気持ちを残しているのではないだろうか。いつかまた怜子さんとよりを戻したいと考えているのではないか。
裏切られて信頼感はなくなったが、それでも大好きだった怜子さんと離婚する決心がつかないのではないか。そう言ってみたが、彼は「わからない」と頭を抱えるばかりだった。
***
康晴さんが抱いていた怜子さんの良いイメージは、まず娘への仕打ち、そして不貞行為によってほとんど崩れかけている。それでも離婚しない理由は本人も分かっていないようだ。
虐待、そしてもしかすると不倫に走ったことも、怜子さんの生い立ちが関係しているのかもしれない。そんな怜子さんを求める康晴さんの姿勢にもまた、幼くして母を失った過去の影響が感じられる。心を許した人をふたたび失いたくない、そんな心境だろうか。
母不在の家庭に育ったことで「自分の感情を隠す習慣ができた」と康晴さんは語っている。怜子さんはいっときその例外だったのかもしれないが、別居する今となってはもう、その立場には戻れない。そして逢瀬を重ねる真琴さんも自分をさらけ出せる相手ではない。
怜子さんと離婚したいのか、よりを戻したいのか。哀しい習慣によって、康晴さん自身も自分の感情が分からなくなっていそうだ。
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