カンヌ映画祭で受賞「青山真治監督」が問い続けた、人はひとりで生きていけるのか【2022年墓碑銘】

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 満ちては引く潮のように、新型コロナウイルスが流行の波を繰り返した2022年。今年も数多くの著名な役者、経営者、アーティストたちがこの世を去った。「週刊新潮」の長寿連載「墓碑銘」では、旅立った方々が歩んだ人生の歓喜の瞬間はもちろん、困難に見舞われた時期まで余すことなく描いてきた。その波乱に満ちた人生を改めて振り返ることで、故人をしのびたい。

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 映画監督の青山真治さんの作品は娯楽大作でもなく、観客の感情移入をあてにしたお涙頂戴の展開でも、難解でもない。誠実に問いかけてくる味わいがあった。それは、人はひとりで生きていけるのか、といったテーマであったりする。

 2007年公開の「サッド ヴァケイション」では、幼い頃に自分を捨てた母親(石田えり)に偶然再会した主人公(浅野忠信)が、母親への復讐を胸に秘める。だが、我が子を愛しているのかいないのか、優しいのか残酷なのか、善悪を超えて圧倒的な母性の迫力に彼は飲み込まれてしまう。

 結論めいたことを示して作品をまとめることはしなかったが、一歩を踏み出す登場人物の姿は何かの始まりを感じさせた。

 青山監督と30年以上の親交があり、映画会社boid社長で映画評論家の樋口泰人さんは振り返る。

「画面の力を信じていました。せりふの語り口ではなく、画面の中からいろいろな声が聞こえてくる、画面から物語がどんどん出てくるのです。主人公だけでなく周りの世界がざわめいていく様子を映し出せた。でも、あれこれ指示して演出をつけたり、このシーンが何を意味するかなどと説明しません。右手を上げるような何げない動作でも、どのぐらいの時間をかければ案配がいいのか、演じる側が自然とつかみ、役を生きることができた。役者の考えも受け入れ、演技を一緒に作り出していました」

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