森保監督の驚異的な「マネジメント術」を専門家が分析 恩師が明かす「やんちゃで繊細」な素顔とは
組織として注目すべき事例
組織論の専門家の目には、森保監督はどう映っているのだろう。同志社大学政策学部の太田肇教授が言う。
「今回は人選段階から、出ない選手は選ばないという、総力戦のための仕掛けがなされていたと思います。蚊帳の外に置かれる選手が多いとチームが盛り上がらず、不協和音につながりますが、主役になれる人が多ければ一体感が出ます。企業でも日本の場合、責任分担が明確ではないため、仕事が集中する優秀な人は極端に忙しくなって不満を持ち、仕事を与えられない人は疎外感をもってサボる、という悪循環に陥ります」
ドイツ戦もスペイン戦も、試合前のミーティングで森保監督は、0対1が想定内だから1点取られても崩れるな、と話している。試合前に悪い状況を想定させた点はどうだろう。
「悪いほうのシナリオを作っておくと、ピンチに焦らずに済みます。いままでの代表チームは、逆境に追い込まれると、チームの様子がおかしくなっていました。森保さんがそこまで想定していたなら、冷静でしたたかです。また、リーダーシップ論になりますが、森保監督は強力なリーダーシップで引っ張るタイプの真逆。こういうリーダーの下だと、選手は自分が主役だと感じます。すでに一部の企業が、森保ジャパンのようにピラミッドを逆三角形にとらえ、リーダーが下から支えている。するとプレーヤーが主体的になるんです」
そして総括する。
「森保監督は“個の力”をたびたび強調され、そこもいままでと違う。従来の日本の組織はメンバーシップ型が多く、日本代表も同様で、全員攻撃、全員守備などと一致団結しやすい反面、周りの空気を読んでなかなかシュートしない、ボール回しばかりになる、という弊害がありました。しかし、今大会は選手全員が本気でベスト8を狙っていて、各々が試合を決めようとしている。これは私の造語ですが、今大会の日本代表は自営型、つまり個人のためにチームを生かす、自営業のような感覚で仕事ができています。森保ジャパンは組織として、非常に注目すべき事例です」
10日間練習に来なかったことも
マネジメント力の原点を、監督の長崎日本大学高校時代のサッカー部監督、下田規貴さんが振り返る。
「中学時代から、森保の自宅にはサッカー部員たちが集まっていたそうです。度量が広いところがあるから、周囲に人が集まるんじゃないですかね。高校時代は試合の中盤を作ったり、パスで試合全体を組み立てたりして、みんなを引っ張るのにも長けていました」
負けん気も強く、
「高2の高校総体で島原に遠征したとき、森保は左腕を骨折していましたが、エースの森保が出られないと試合にならない。そこで森保に“お前がいないとキツイ”と話すと納得してくれて、試合前日に、一緒に風呂で左腕のギプスの石膏を溶かして、翌日、テーピングして強行出場しましたよ。仲間へのラフプレーに怒って飛びかかっていくなど、正義感もありました」
やんちゃなところや繊細な面もあったという。
「時代柄、当時のサッカー部員には喫煙とかパチンコとかに興じるようなのも多かったですね。森保もみんなと一緒で、結構やんちゃな感じでした。一方、ライバル国見高校との試合で歯が立たなかったとき、森保はショックを受け、10日間ほど練習に来なかった。私は練習後、毎日車で1時間くらいかけて、森保の家まで様子を見に行きましたが、彼は隠れていて、ご両親と話して帰る感じでした。私がそこで諦めていたら、いまの森保はいなかったかもしれませんね(笑)」
他人の気持ちを理解するうえで、重要な感性かもしれない。ところで下田さんは当初、カタールに行く予定だったそうだが、
「10月初めに家内が亡くなり、森保が押さえてくれたチケットと宿を急遽キャンセルしてもらいました。森保は“奥さんのことはつらいでしょうが、追悼の意味でもカタールで頑張ってくる”と言ってくれました」
ここにも義理堅さが表れている。
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