森保監督の驚異的な「マネジメント術」を専門家が分析 恩師が明かす「やんちゃで繊細」な素顔とは

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西郷隆盛との共通点

 今回の起用には、選手たちからの不満などは出ていないのだろうか。

「たとえば、後半に交代した選手が攻撃チャンスでアピールできている一方、久保建英や鎌田大地、伊東純也らは、それを支えるべく、前半からの守備のハードワークを求められています。そうなると、彼らが持っている攻撃力などを、あまり出せないのですが、みな、チームが勝つために監督から与えられた役割を全うする、と割り切ることができています。森保さんの考え方を、チーム全員が理解できている証左です」(元川さん)

 サンフレッチェ広島のオフィシャルマガジン「紫熊(しぐま)倶楽部」の中野和也編集長も、森保監督を語る。

「サンフレッチェ広島時代から、記者のどんな質問にも誠実に答え、厳しいときも逃げずに話してくれた方で、誠実で誰からも好かれる、という評判は正しいと思います。選手時代から感謝とリスペクトを欠かさず、その辺りは一切変わっていません。日本代表監督に就任したときも、取材に行くと、最初にスポンサー、スタッフ、選手への感謝やリスペクトがあって、それから試合の総括に入る。スタッフ力で勝つことを強調していました」

 そのマネジメントの手法についてだが、

「独裁型の監督も、スピード感があるなどの良さがあると思いますが、森保監督は役割分担を非常に明確にさせていたと思います。主導するのは森保さんですが、すべてを自分でやるというイメージではなく、やはりスタッフ力なんです」

 そこで中野氏は、森保監督を西郷隆盛に例える。

「たとえば大久保利通のような、頭が切れ、能力もすぐれた人たちが西郷さんの下に団結したのは、相手を信じ切って任せ、最終的な責任は自分が取る、というマネジメント法がよかったからです。森保さんも、それに近いマネジメントをしていると思います。いろんな人のアイデアを集約して、それを取捨選択して一つの方向性を出すという能力も、非常にすぐれた人だと思います」

選手からの信頼を勝ち得た方法とは

 森保監督の力を、ビジネス本を書くつもりで、中野氏にまとめてもらった。

「一つ目は信頼する力。周囲に対するこの力がまずあると思います。二つ目が学びとる力。たとえば、広島時代はペトロヴィッチ監督の下でコーチを務め、戦術的なことから、チームのアイデアに対する分析力まで学んだと思います。そして三つ目が、ブレないこと。大会前から大きな批判や非難にさらされていて、普通だったら耐えられません。しかし森保さんは、常に淡々と自分がすべきだと確信したことを貫いています」

 カタールで取材を重ねる記者は、こんな指摘を。

「森保は欧州での経験もなく、久保や堂安、鎌田らからは監督批判とも受け取れる発言もあった。要はなめられていたのですが、そんななか、森保は選手との二者面談を繰り返し行ったそうです。歴代の監督に、それを頻繁に行った人はなく、そんな労を惜しまぬ努力の末、森保は選手から信頼されるようになりました」

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