「観戦チケットは俺の月給と同額……」 人口の9割が「出稼ぎ労働者」、W杯開催地“カタール”の深刻すぎる格差
「W杯を楽しむ余裕はないよ」
ただ、「人権問題は改善した」と言うカタール人たちは、スタジアムを高級外車で訪れ、VIPとして悠々と観戦する。そして、カタール代表が劣勢になると、試合後半にはあきらめて席を立ってしまう。応援は日当を払って集めたとされるゴール裏の外国人に「あとは任せた」と言わんばかり。W杯の開幕戦にも関わらず、11月20日のカタール対エクアドル戦は空席が目立つ異様な光景だった。「こんな調子だから……」と思わなくもない。
批判が相次ぐ異例のW杯を、出稼ぎ労働者たちはどう思っているのか。
「チケット代が高すぎて観戦に行けない。俺の月給分だよ」
怒気を込めて話すのは、インド出身の清掃員の男性(52)だ。男性によると、現在のチケット価格は最低でも約3万2000円。カタール政府は出稼ぎ労働者に月約4万円の賃金を保障しているが、祖国に仕送りをしており、チケットどころか目の前の生活で手一杯なのだという。また、ウガンダ出身のタクシー運転手(21)は「1日12時間以上働いているので、アパートに帰ったら寝るだけで、W杯を楽しむ余裕はないよ」と話す。
一方、ドーハ市内の至る所で開かれている無料のパブリックビューイングに参加していたケニア出身の男性警備員(23)は、「毎日がお祭り騒ぎさ。お金がかかるからスタジアムには行けないけど、仲間と試合観戦で盛り上がれるのはすごく楽しい」と笑顔だ。
欧州が批判する人権問題について問うたところ、この男性は、「サッカーと政治は分けて考えるべきだ。出稼ぎ労働者たちは祖国に仕事がないからこそ、カタールに来ている」と強調。スタジアム建設などで多数の死者が出たという報道は知っているというが、「それぞれの決断は尊重されるべきだし、他国から一方的に批判されるのはおかしいと思う」と淡々と語った。
労働者たちの反応は十人十色だが、W杯は12月18日の決勝戦まで熱狂が続くだろう。祭典が成功裏に終わったとしても、その陰に労働者たちの支えがあったことを忘れてはならない。それはサムライブルーの躍進に浮かれる日本人も他人事ではない。