ゴルフ「米欧日パートナーシップ」体制を解説 日本選手にとっては朗報 その狙いと背景は?

スポーツ

  • ブックマーク

背景にはリブゴルフ

 話が少々複雑ゆえ、もう一度、整理してみるとこのようになる。

 今回のパートナーシップ締結により、日本ツアーの賞金ランキング上位3名は欧州のDPワールドツアーのメンバーシップを得ることができ、いざ参戦したDPワールドツアーの年間ポイントレース(レース・トゥ・ドバイ)でトップ10に入れば、米国のPGAツアーのメンバーシップが手に入る。

 さらに言えば、日本で開催されるISPS HANDA CHAMPIONSHIPで優勝すれば、即座にDPワールドツアーのメンバーになることができ、やはり日本開催のZOZO CHAMPIONSHIP(アコーディア・ゴルフ習志野カントリークラブ=千葉県)で優勝すれば、即座にPGAツアーのメンバーになることができる。

 最近では「日本にいながらにして海外の大学に留学できる」といった内容の国際的な大学の宣伝文句を目にする機会が増えた。それと同様に、日本にいながらにしてDPワールドツアーやPGAツアーへの道がこれほど開けたのは、ゴルフ界史上初めてのことだ。

 そして、日本ツアーの選手に対して狭められていた門戸が突然開かれた理由は、間違いなく、あのリブゴルフが創設されたことに起因している。

 サウジアラビアの政府系ファンドの支援を受け今年6月に創設されたリブゴルフは、すでにアジアツアーに3億ドルを投入し、同ツアーの中に新たに設けた年間10試合からなるインターナショナル・シリーズをリブゴルフとリンクさせるなど関係を強めている。実質的にはリブゴルフがアジアツアーを傘下に組み込んでいると言っても過言ではない。

 そんな「リブゴルフ―アジアツアー」の勢力に対抗すべく、PGAツアーとDPワールドツアーは戦略的提携を結び、今回はさらに日本ツアーを引き込んで「米欧日」体制を作り出したと見るのが妥当である。

 欧州のペリー会長も米国のモナハン会長も、日本ツアーが才能ある選手を多数輩出してきたことに対して賛辞を口にし、欧米ゴルフツアーへの「ダイレクトな道筋」ができたと語っている。

 厳密に言えば、DPワールドツアーへの道はダイレクトであっても、PGAツアーへの道は欧州経由であって、ダイレクトではない。そして、パートナーシップと言っても、3者が対等に位置づけられているわけではない。言ってみれば、米国内ではPGAツアーの下部ツアーとしてコーンフェリーツアーがあるように、米国外ではPGAツアーの下部にDPワールドツアーが位置づけられ、今回、そのまた下に日本ツアーが位置づけられたようなものだ。

 しかし、それでもなお、日本ツアーの選手にとっては、閉ざされていた扉が一気に開いたような、ありがたい話だ。日本ツアーが米欧両ツアーと手を結んだ以上は、今後はリブゴルフに参加した日本ツアーの選手は、米欧両ツアーがせっかく開いてくれた扉をくぐることはできなくなるはず。それゆえ、海外志向を抱く日本ツアーの選手がリブゴルフに出場するケースは今後皆無になると考えられ、そうなること、そうすることこそがPGAツアーの狙いだ。

 日本ツアーの選手をリブゴルフから遠ざけ、PGAツアーとDPワールドツアーの「反リブゴルフ勢力」の中に組み入れることができるのなら、それと引き換えにPGAツアーのメンバーシップに続く道筋をつけてあげようではないか――。今回の「米欧日」によるパートナーシップ提携の背景には、そんな思惑と駆け引きが見て取れる。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。