小池都知事の「多摩格差ゼロ」はどうなった? 臨海地下鉄発表で“後回し”への不安
2022年11月25日、東京都の小池百合子知事は定例記者会見で「都心部・臨海地域地下鉄構想」(臨海地下鉄)を正式に発表した。臨海地下鉄の計画は以前から東京都が有識者を集めて検討を重ねていたが、前日に読売新聞がスクープ記事として詳報したことで一般的に知れ渡った。
【写真】2016年以降、小池百合子都知事は多摩振興を打ち出していたが
臨海地下鉄は東京駅と有明・東京ビッグサイトの約6.1キロメートルを7駅で結び、中間には銀座や再開発が待たれる築地市場、人口増が著しい豊洲などに駅が設置される予定だ。
昨今、日本全体が人口減少局面となり、それに伴い鉄道の利用者は減少している。さらに2020年初頭から感染拡大した新型コロナウイルスが鉄道需要の減少に追い討ちをかけ、地方のローカル線は壊滅状態に陥っている。
東京都といえども、少子高齢化やコロナ禍による鉄道需要減は避けられない。今後、さらにテレワークが普及することを考えると、鉄道網が充実している東京で、これ以上に鉄道整備の必要があるのか? それはオーバースペックになってしまうのではないか? と考える人もいるだろう。
それにも関わらず、小池都知事は臨海地下鉄の開業意義を東京五輪後の選手村跡地や投資を呼び込むためと説明した。
ただし、臨海地下鉄は東京都が発表した計画に過ぎず、まだ事業認可はされていない。そのため、工事を始める段階にない。それでも、小池都知事が大々的に発表したこと、テレビ・新聞も大きく取り上げたことなどから期待は高まっている。
臨海地下鉄には東京都も大きな期待を込めているようで、2040年代までに開業させる青写真を示している。しかし、同路線の事業費は約5000億円と試算された。通常の地下鉄は1キロメートルあたりの事業費が約200億円前後なので、臨海地下鉄の事業費は明らかに割高といえる。
臨海地下鉄の事業費が高額になる理由は、東京駅・銀座駅一帯には地下鉄や地下街が密集し、それらを避けて建設しなければならないからだ。臨海地下鉄は、必然的に深い地下に建設せざるを得ない。
東京都が臨海地下鉄の開業に意気込む一方、忘れられつつあるのが多摩格差を謳い文句に計画が進められてきた多摩エリアの鉄道整備だ。
臨海地下鉄に莫大な整備費を使ったら…
小池都知事は2016年の都知事選と2020年の都知事選で多摩格差ゼロを公約に掲げた 。両選挙における多摩地区への文言は微妙に異なるものの、どちらも東京23区に対して多摩のインフラ整備が進んでいないことを意識し、開発リソースを振り分けることを盛り込んだ公約だった。
筆者は2016年の都知事選後に何度も東京都都市整備局や建設局、はたまた関係する地元自治体に足を運び、担当者に取材してきた。どの担当者も多摩地区のインフラ整備が追いついていないことを認識し、多摩を発展させるためにはインフラ整備が欠かせないと強調した。それは2020年の都知事選後も変わっていない。
東京都は多摩振興のために、特設サイト「多摩の魅力発信プロジェクト」を立ち上げている。そこで多摩エリアの情報を発信し、多摩の魅力を伝えるとともに多摩を経済的・産業的に振興させるための旗を振っている。
東京都が用意する多摩振興策は多々ある。すべてを政策に移すことは難しいだろう。しかし、鉄道関連だけを取り上げても、多摩都市モノレールの延伸、京王線・東武東上線・西武新宿線などの立体交差化、中央線の三鷹駅―立川駅間の複々線区間の延伸といった課題が長らく山積している。
これらは昨日今日に持ち上がった話ではなく、多摩住民が長年にわたって解消を求め続けてきた問題だ。ゆえに、臨海地下鉄が大々的に発表されると、「また、多摩格差の解消は後回しにされるのではないか?」「臨海地下鉄に莫大な整備費を使ったら、多摩都市モノレールの延伸計画が遅れるのではないか?」といった不安が広がる。
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