日本発の「おいしさ」を世界に届ける――高宮 満(キユーピー代表取締役社長執行役員)【佐藤優の頂上対決】
保存性を高めると
高宮 二つ目に注力したいのは、おいしさを担保しながら保存性を磨いていくことです。人は、食べ物のおいしさと保存性を両立させることに弛(たゆ)まぬ努力をしてきました。乾燥させたり微生物に発酵させたり、やがて缶詰を作り、冷凍するようになりました。
佐藤 それがまさに文明ですよね。保存方法を獲得することで、人類の生活は大きく変わっていきました。
高宮 私どもはマヨネーズが主力ですが、保存が難しいお総菜や千切りキャベツのパッケージなども作っています。また卵も、割ったものを毎日、パン屋さんやお菓子屋さんにお届けしています。でもこれから先の日本を考えると、このやり方は続けられないと思うのです。
佐藤 人口が減り、人手不足が深刻化しますからね。
高宮 はい。毎日作るということは、毎日運ぶことになります。つまり毎日、トラックの運転手さんやお店で調理する人が必要です。さらに言えば、昨今、天候が非常に不安定になっていますから、物理的に定時定刻にお届けすることが難しくなっている。
佐藤 保存性が高くなれば、それが解決するわけですね。
高宮 そうです。食品の保存性を高めれば、その毎日を5日や6日に1度にすることができます。そうすれば人にも環境にもやさしい社会になっていくと思うのです。
佐藤 容器や包装も大事になってきますね。
高宮 もともとマヨネーズは保存性の高い瓶詰めでしたが、昭和30年代には現在の絞り出すボトル式の容器になりました。その後、中身は油の酸化を抑える工夫をしながら、容器自体では酸素を吸収するように改良するなどして、20年前は7カ月だった賞味期限がいまは1年になっています。
佐藤 それはフードロスの問題解決にも貢献します。
高宮 他にも会社にとっては、賞味期限が延びると、輸出が容易になるという利点があります。実はこれが三つ目に力を入れていきたいことで、海外の方に日本発の食のおいしさをもっと知ってもらいたいのですよ。
佐藤 海外展開ですね。これについて、キユーピーには出遅れ感があるという指摘がありますね。海外の売上比率は約13%で、キッコーマンの60%強、味の素の50%強に比べるとかなり低い。これはどうしてなのですか。
高宮 マヨネーズ関連の商品が、2000年を越えるくらいまで国内で伸び続けていたからなんです。それでのんびりと構えてしまった。一方、醤油はもっと早くに国内で飽和状態となり、焼き肉のタレや麺つゆに展開する一方、積極的に海外に出て行ったんです。
佐藤 つまりその必要性がなかった。
高宮 ただ、その後に状況が変わり、10年程前から本格的に海外展開を始めました。主力商品はマヨネーズと「深煎りごまドレッシング」で、いま、ようやくその努力が実を結びつつあります。
佐藤 海外での売上目標はあるのですか。
高宮 2024年に800億円を目標としています。
佐藤 輸出されているのはどんな国々ですか。
高宮 日系人がいたり、日本との交流が深かったりした北米やブラジルなどから始めて、ヨーロッパ、オセアニアの国々へと広げ、現在、私たちが直接販売に関わっている国と地域は62に上ります。
佐藤 それは多いですね。アジアはどうですか。
高宮 アジアは中国を始め、タイ、マレーシア、ベトナム、インドネシア、シンガポールなどに輸出し、中国では1994年から現地生産も行っています。
佐藤 インドネシア、ベトナムなどは、これから中産階級が増えていきますから、大きく伸びそうですね。
高宮 62の国と地域のうち、最後に加わったのはケニアです。今後は、そこを起点にアフリカでも食べていただけるようにしたいですね。
佐藤 これから経済成長していくアフリカは、非常に大きな市場です。
高宮 日本の食べ物は、いい材料を使って丁寧に作られ、品質も高い。だから必ず世界中に受け入れられていくと思います。食べることは人を幸せにしますし、元気の元にもなる。アフリカの経済成長においても、おいしい食べ物は大きな力になるはずです。私どもも遅ればせながら、世界各地に日本発のおいしさを届けていきたいと思います。
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