日本発の「おいしさ」を世界に届ける――高宮 満(キユーピー代表取締役社長執行役員)【佐藤優の頂上対決】
健康に貢献するために
佐藤 では、高宮社長は会社をどのように変えていこうとされているのですか。
高宮 未来に向け、これも三つのことに力を入れていきます。まず一つは、食べ物を通じ健康に深く関わっていくことです。食べることは、健康のバロメーターです。病気の時には食が進みませんが、体調がよければおいしくたくさん食べることができます。まずこの基本的な部分をきちんと追求していきたい。
佐藤 私はいま週に3回、透析を受けていますから、それは日々実感しているところです。
高宮 そうでしたか、それは大変ですね。言うまでもなく、日本ではいま高齢化が進んでいます。それはさまざまな数字に表われていますが、例えば国の一般会計は昨年110兆円ほどで、国民医療費は40兆円を超えています。
佐藤 医療費は増える一方です。
高宮 国民医療費のお金を減らせば、その分を他のことに回せる。そのためには病気になる前に、きちんと健康に気を配ることが必要です。そしてその役割は、食品会社である私どもが担うことができると思うのです。タンパク質を多く取ってもらうとか、中年の方にはカロリーを控えめにしてもらうとか、いろいろなことが提案できます。
佐藤 カロリーなら、まさにカロリーが半分の「キユーピーハーフ」があります。
高宮 「キユーピーハーフ」は今年、発売30周年を迎えました。実はこれが誕生する時には、社内で大激論があったんです。もともと弊社のマヨネーズは、日本人の豊かな食生活を目指して作られ、栄養価が高いことが商品の特徴でした。ですからハーフはある意味、自分たちの商品を否定するような商品で、そこが議論になりました。でも発売してみると、選択肢ができたと多くのお客さまに喜ばれた。時代がそれを求めていたんですね。
佐藤 ハーフとマヨネーズの味は、もうほとんど変わらないですね。これがコレステロールの含まれていない「キユーピー ゼロ ノンコレステロール」になると、変わってきますけども。
高宮 よくご存知ですね。ハーフは「えっ、マヨネーズじゃなかったの?」と言われることを目指しています。30年の間に何度も味を調整し、だいたい8合目か9合目まできています。ただ山登りと同じでそこからが難しい。
佐藤 いまハーフの売り上げの割合はどのくらいですか。
高宮 マヨネーズ関連商品の中の3割くらいですね。
佐藤 私は腎臓が悪いので、塩分のコントロールに日々気を付けているのですが、実はマヨネーズは塩分が少ないですよね。
高宮 その通りで、マヨネーズは低塩の食品です。食塩コントロールという要素は、今後、意識的に商品に取り入れていきたいと思っています。
佐藤 健康については、東京大学とも連携されています。
高宮 東大に高齢化社会について研究する「高齢社会総合研究機構」という機関があります。そこの産学連携プロジェクトに5年前から参加させていただいています。
佐藤 高齢化対策は喫緊の課題ですが、特効薬がありません。しかも2040年には85歳以上の高齢者が1千万人を突破してしまいます。
高宮 高齢者については、体にいいものを食べていれば健康になると、一概にはいえないんですね。「食と健康に貢献する」ことが弊社の理念ですが、そこで一つの壁にぶつかっていました。私どもが得意とする卵とサラダはもちろん健康価値が高いのですが、それだけでは不十分だった。その東大のコミュニティーから教えられたのは、栄養とともに運動、そして社会参加が必要だということでした。
佐藤 確かに社会で何か一つでも役割があると人は生き生きとします。
高宮 高齢者が病気になる前の虚弱な状態をフレイルと言いますが、この段階で社会参加、運動、栄養の摂取を促し、健康を取り戻すお手伝いをしていきたいんですね。これは医療費や介護費の削減につながるだけでなく、寝たきりにならずに幸せに生きる方法でもあります。このコミュニティーには、高齢者が活躍できる社会を作ろうと住宅会社や情報会社、流通会社なども集まっています。
佐藤 具体的にキユーピーとしてはどんなことをされているのですか。
高宮 例えば、流通のイオンさんと組んでショッピングセンターでの行政、複数企業と連携したフレイル予防の啓発イベントと、売場でのメニュー提案を計画的に連携させる取り組みをしています。
佐藤 イオンには食品売場もありますから、具体的な提案ができますね。双方にとってウィンウィンになる。
高宮 お客さまと会社、さらに社会にもいい影響を及ぼしますから、ウィンウィンも掛け算くらいの効果を出したいですね。
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