浮気疑惑が引き金で、妻は秘密のパーティーに参加すると言い出し…おかげで夫婦の会話は増えたが
圧倒される男たち
帰り道、妻はご機嫌だったが、彼は平静を保つだけで精一杯だった。妻に誘われてバーに行くと、思わず『他の男はよかった?』と卑屈な言い方をしてしまった。
「すると妻は『私、いろいろな憑きものが落ちたような気がするわ』と爽やかに言うんです。『けっこうまじめに生きてきたのよ、私。結婚前につきあった人はひとりしかいなかったし、結婚後はいい妻、いい母、いい嫁でもあろうとがんばってきた。だけどあなたが浮気しているかもしれないと思ったら、何かがプチッと切れちゃった』って。たまたまですが、妻の幼なじみが亡くなったのも重なって、『人間、いつ死んでもおかしくない。やり残した後悔を抱えながら生きていくのはいや』と思うようになったそうです。だから僕の浮気疑惑をきっかけに、自分のしたいことをしてみたかった、と。それがあれか、と僕は思わず言ってしまいました。妻は視線を落としながら『私、本気で感じたことがなかったのよ』とつぶやきました。僕としては泣きっ面に蜂……」
誠治さんは苦笑しながらそう言った。当時はあまりのショックに妻を憎みそうになったが、見知らぬ男との行為を思い起こすと本気で感じたことがないのは率直な意見だろうと思うようになったそうだ。
「僕自身は、結婚生活に夫婦の性が重要だとは思っていなかったんです。それほど欲求が強いほうではないし、妻もそれで納得しているんだと思ってた。でも妻はそこはとにかく不満だったんですね。夫婦としてやっていくには重要だと言われました」
そこを改善してほしいから、またパーティーに行きたいと清香さんは言い出した。1回だけの約束だったと彼は必死で抵抗したが、妻は聞かない。
「妻は主宰者とけっこう密に連絡を取り合っていたようです。次に行ったときは、『清香さんの願いを叶えてくれる人が来てくれますよ』と声をかけられました。そのときも僕の知らない妻の顔をたくさん見ることになったんです」
かつて妻が「ぶって」と言ったのは、彼女の心からの欲求だったようだ。夫は自分の要求を満たしてはくれない。だからそのパーティーで妻は相手を探したのだ。
「心ゆくまで妻は噛まれたりぶたれたりしたようです。あげく緊縛されて、見たこともない美しい表情を浮かべていました。周りの人たちもみんな見ていた。彼女はすっかり人気者になっていましたね。他にも縛られたい女性たちが何人かいて、僕ら夫たちは呆然としながらお互いを慰め合うようにワインを飲みました」
こういったパーティーに私も同席したことがあるが、女性の性に圧倒される男たちの図式は見ていて、ある種の爽快感があった。男性側に立てば、「僕らの結婚生活は何だったの」ということになるのだが、そう考える必要はないのだと思う。妻の欲望が満たされたからといって、気持ちが夫から離れていくわけではないのだから。
「何度か通って、そのたびに僕はびっくりしながら、少しずつ妻の意見を聞くようになりました。妻自身も、自分の欲望に驚いているようでしたが、欲望が満たされる楽しさも知ってしまった。『私、すごく満たされている。あなたのおかげよね』と言われて、妻は僕を見限ろうとしているわけでもないとわかった」
そこからふたりの関係は変わっていった。妻は生き生きとし、以前よりさまざまなことに対してこまやかになった。「さっぱりしている」と見えていたのは、必要以上に人との関係に深入りしなかっただけだ。浅い関係のほうが傷つかなくてすむから。
「それは彼女自身が認めていました。人と深くつきあうとつらくなるだけって。僕らの夫婦関係も以前は浅かったのかもしれない。ああいうことを始めてからは、いちいちお互いの気持ちを細かく深く聞くようになったんです。その結果、僕たち夫婦は変わってきました」
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