浮気疑惑が引き金で、妻は秘密のパーティーに参加すると言い出し…おかげで夫婦の会話は増えたが

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「私もしたい」

 そして妻が出した結論が、「私も浮気したい」だった。ごく平凡な男である誠治さんは、「ぶっ飛ぶ」ほど驚いたという。だが、その後、少し腑に落ちるところもあった。

「妻の性癖というんでしょうか。つきあっているころ、愛し合っている最中に『ぶって』とか『噛んで』とか言うことがあったんです。僕はあまりそういうことで興奮しないし、いじめるようなことはしたくないと言って断ったんですが、妻にはそういう志向があったみたいですね」

 妻の望みは、誠治さんの目の前で浮気したいということだったのだ。いくらなんでもそれは避けたい。彼はあれやこれや言い訳を考えて説得しようとした。

「でも妻は言い出したら聞かない性格。あなたが拒否するなら、私は外で勝手に浮気してくるけど、それでもいいのかと真剣に問われました。知らないところでされるよりは事実を直視したほうがいいかもしれないと思ってしまった。だから一度だけという約束で、そういうことがおこなわれているパーティーに行ったんです。そのパーティーは妻が探してきました。ネットを駆使すればいくらでもこんなの見つかるわよと言っていましたね」

 ある土曜日の夕方、夫婦でデートをするからと言って母に来てもらった。いつまでも仲がよくていいわねと母はにこやかに送り出してくれたが、誠治さんは絶望的な気分だったという。

「どこの世界に妻の浮気を後押しする夫がいるんでしょうか。これは夫への虐待ではないかと僕は清香に言ったんです。清香は『嫌ならいいわよ、ひとりで行くから』と涼しい顔をしている。僕、もともと心配性なので、ひとりで行けと言えるタイプではない。妻はそれがわかっていて平然としている」

 結婚して10数年たって、なぜこんな思いをしなければいけないのかと内心、割り切れないものを抱えながら、誠治さんは清香さんのお供をした。行った先はとあるホテルのスイートルーム。同世代らしい4組ほどのカップルとマッチョな若い男性が数名、ひとりで来ている女性もいた。

「みなさん穏やかに世間話をしていて、その中に入れてもらいました。主宰者の夫婦が、今日は楽しみましょうと挨拶をして、ひとりずつ紹介してくれて……。でも、はっと気づくとそこら中で組んずほぐれつが始まっていた。そのうち妻に言い寄ってくる男性がいたんです。妻が手をとられて隣の寝室へ行くのが見えた。妻は振り返って手招きしました」

呆然と見つめるしかなかった

 そこからは誠治さんにとって「地獄のような時間」だったが、不思議な感覚も味わった。彼が傷ついたのは、行為そのものを見せつけられたことではなく、見知らぬ男と妻が言葉を囁きあいながらクスクス笑ったり見つめ合ったりしているのを目の当たりにしていることだった。

「肉体関係そのものにショックを受けなかったわけではありませんが、より心がえぐられるような気持ちになったのはふたりの気持ちが行き交っているのを見たことです。知らない男ですよ、背景も何も知らず、二言三言しか交わし合っていない男と、妻はあんなふうに恋人のような雰囲気を作ることができるんだ……。いや、実は一目惚れしてしまったのかもしれない……。いろいろな考えが頭の中をめぐって、どんどん苦しくなっていきました」

 妻が今まで見たことのないような燃え方をしている。誠治さんは呆然とそれを見ているしかなかった。

「主宰の男性が横にやってきて、『ショックですか?』と。『これは高等な遊びなんです。嫉妬するなら、奥様を愛している証拠ですよ。これをきっかけに夫婦関係を考え直す方がたくさんいます』とも言われました。男としてダメだという証拠をつきつけられている気がすると思わず本音をつぶやくと、『みんな最初はそう思うんですよ。でも奥様は刺激と興奮で、今までとは違う世界に行っているだけ』と慰められました。僕はこれまでの夫婦関係を否定されたような、僕自身を否定されたような気持ちになってしまって」

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