〈子供たちの行方不明が増えたのは闇の政府が…〉 “普通の人”が「陰謀論」にハマる意外な理由

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〈「政府は秘密結社が掌握」と44%の人が回答〉

 今、陰謀論が民主主義の脅威となっている――と言われて、ピンとくる方はどれぐらいいるだろうか。

 米国では既に一部の過激派以外の一般有権者たちにも陰謀論が広がっているという。ある世論調査では有権者の44%が「連邦政府は秘密結社が掌握している」と回答した、との報道もある。(「日本経済新聞」11月5日より)

 しょせん米国での話だろう、と思われるかもしれないが、我々も決して人ごとではいられない状況だと新著『デマ・陰謀論・カルト―スマホ教という宗教―』で警鐘を鳴らしているのは作家の物江潤氏だ。

 物江氏によれば、ネットやSNS上では、およそ常識とはかけ離れた陰謀論やトンデモ説、カルト的な思想を信じ込み、自ら懸命に発信している人たちが日本にもたくさんいるのだという。

 たとえば自殺した有名人(仮にAさんとしておく)の名を挙げながら、

「Aさんが亡くなったのは、自殺ではありません。闇の組織の秘密を知ってしまい、それを明かそうとしたことで“消された”のです!」

 などという陰謀論・トンデモ説を拡散するという具合だ。

 もちろん世の中には「小説よりも奇なり」といった話は数多くある。しかしながら、この手の「闇の組織」についての話を聞いても、普通は疑ってかかる。ましてや広めることにはためらう。

 子供ならば「ショッカーが世界を支配しようとしている」と信じるかもしれないけれども、大人は「ショッカーなんていない」と知っている。

 ところが、普通に考えればとても信じるはずがないようなことを、信じてしまう人が増えている、というのが物江氏の分析だ。

 なぜそんなことになったのか? 同書では、普通の人が陰謀論にハマる理由、陰謀論の抗いがたい魅力の仕組みが解説されている。

 改めて著者の物江氏に、このあたりの仕組みを聞いてみた。

芸能人の自殺、実は「殺人」だった!

 陰謀論が生まれ、拡散される過程には、感情の高ぶりが深く関係している、と物江氏は語る。

「学閥のような非公式の組織に集った権力者たちが謀議し、表の組織に大きな影響を与えているというイメージは陰謀論の典型ですね。作家の副島隆彦さんは、これを『権力者共同謀議理論』と捉えて論じました。米世論調査の『連邦例府は秘密結社が掌握している』というのもこれに当てはまります。もちろん、ある種の権力者が悪だくみをすること自体は実際にありうる話で、日本でいえば、特定の業界と官僚・政治家による談合などがイメージしやすい。

 ただ、現状、ネット上で広まるトンデモ陰謀論の類は、そうしたものではありません。

 現実にあるいくつかの事実を勝手に結び付けて、関連があるように語ってしまう。結びつけるにあたっては、本当かうそかわからない『仮定』が用いられる。強引に点と点を線でつなぐようなものです」

 点と点がつながって作られるストーリーとは、たとえば次のようなものだという。実際に一部で広められた説である(デマの拡散を避けるために、あえて固有名詞などは記さず、表現を変えてまとめる)。

「コロナ禍以後、芸能人の自殺が相次いでいる。

 しかし、中には実は自殺に見せかけた殺人もある。

 これには世界を支配するDS(闇の政府)が関係しているのだ。DSは小児性愛者の集団であり人身売買をしている。彼らは秘密の若返り薬を、世界中のセレブや日本の芸能人に販売していて資金源としている。

 この薬の成分は恐怖を感じた子供の脳内にある松果体から生じる。だから人身売買の必要があるのだ。

 薬を作るためにDSは子供たちを誘拐・虐待している。最近自殺した俳優は、この薬の隠語である『白ウサギ』を、暗に伝える投稿を複数回していた。匂わせ投稿により悪事を告発しようとした俳優は、闇の組織によって殺されてしまった」

 物江氏はこう解説する。

「この話の中で事実なのは『芸能人の自殺が相次いでいる』くらいでしょうか。それとてコロナ前と比べて有意な差があるかどうかはわかりませんが。

 また、自殺した俳優が、何らかの投稿をしていたことも事実です。それ以外は全部、説を唱えている側の勝手な仮説、思い込みにすぎないのは言うまでもないでしょう」

 それならば信じる余地も、広める意味もないように思われるのだが、こうしたトンデモ説の魅力は、強引に「点と点」を結び付けることで、一種の快感を呼ぶ点にあるという。

「普通ならば信じませんよね。でも、このストーリー(トンデモ説)で、抱えていた疑問が解消された、スッキリした、と思う人が一定数現れてしまうのです。

 たとえば『芸能人ってなぜあんなに若々しいんだろう?』という疑問には、『秘密の薬があるから』という答えが提示されている。

『なぜあんなに前途洋洋の俳優が自殺したんだろう?』という疑問には『闇の政府が動いた』という答えが。

『子供たちの謎の行方不明がなぜ絶えないのか』には『闇の政府が誘拐している』という答えが。

 そんなバカな話を信じるはずがないだろう、とツッコミを入れる方が大半だと思います。しかし、実際にこのレベルの陰謀論を信じてしまう人が一定数いて、しかも今はそれを簡単に世界に向けて発信できてしまいます。

 多くの人は大前提となる『闇の政府』の存在を信じません。

 ではなぜこれを信じてしまう人がいるのか。一度これを受け入れると世の中のありとあらゆること、ナゾが解明されるというメリットがあるからだと私は見ています。

『世界を支配する闇の政府がある』という仮定さえ信じられれば、かつては妄言に見えていた無数の点が、突如として真実になってしまう。

 これまでは見えなかった真実たちが燦然と輝く、全く新しい世界が一気に広がる。そのときに生じるだろう高揚感は、きっと格別なものに違いありません」

 未解決の事件から自分自身の不遇まで、世の中には簡単に説明できないことや納得できないことがあふれている。不条理なことも多い。

 それらをすべてスッキリと理解できた気になれば、快感を得られるのはたしかだろう。

「こういう説を信じる人は、よく『あるとき、突然真実に目覚めました』といった言葉を口にします。これは、ただ一つの仮定を真実と認識した途端、一気に他の仮定までもが真実となり壮大なストーリーができることで、劇的に世界観が変わった現象を指すのでしょう。その結果としてテレビをはじめとしたマスコミを一切信じなくなり、ネットに信頼を寄せるようになるのはよくあるパターンです」

 こうしたトンデモ説、陰謀論を信じる人は昔から存在したし、信じるメカニズムも共通のものなのだろう。ただ、ネットによってよりこの手の陰謀論の説得力は増したのだと物江氏は分析する。

「『ノストラダムスの大予言』も一種のトンデモ説、陰謀論の類でした。しかしこれが広まったのはあくまでも書籍や口コミによるところが大きかった。そこに多少、テレビなどの影響もあったでしょうが。

 ネットやSNSが進化した現在は、こうした説を信じたい人には、その手の話だけが集中して伝わるシステムが存在しています。見たいものだけ見たい、聞きたいことだけ聞きたいというニーズにテクノロジーが応えている。

 だから『すべては闇の政府のせい』という世界観の人には、それに合ったストーリー、説が次々と提供される。結果として、その世界観が強化されてしまう。

 スマホによって、カルト宗教の洗脳のようなことが行われている状況だといえるのではないでしょうか。無邪気に陰謀論を広めている人もいるでしょうが、何らかの悪意のもとにそうしたストーリーを広めている人もいると用心すべきでしょう」

 このような状況下では、今は「闇の政府」を笑っているような人でも、気付かないうちに、デマや陰謀論の世界にはまり込んでしまう危険性があるのだという。そうならないためには、どうすべきなのか。

「自分自身で、自分なりの物語を作っておくことが何より大切です。人生に良くも悪くも影響を与えたリアルの出来事、言葉、人を振り返る。決して、どこの誰かわからない人が伝えてくる『世界の真実』には振り回されず、自分だけの物語を作って核とすることで、悪意の元で創作された物語に支配される危険性を防ぐことができます」

デイリー新潮編集部

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