スコットランド・サッカー協会が驚きの決定 長寿化で「ルールを根本的に変更すべき」との声も

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 4年に1度のサッカーの祭典、第22回FIFAワールドカップが11月20日からカタールで開催されている。

 連日、熱戦が繰り広げられているが、その最中の11月28日、スコットランド・サッカー協会は「へディングを繰り返す練習を週1回以下に制限し、試合前日と翌日はその練習を一切禁止する」との指針を発表した。

 驚かされるのはこの指針の対象にプロ選手も含まれていることだが、指針の発表前に行われたアンケートによれば、監督やコーチの70%、選手の64%が賛成したという。

 手でボールを扱うことができないサッカーで、へディングは頭上にあるボールを処理する唯一の手段(テクニック)だ。1863年にイングランドで近代サッカーが誕生した際、このテクニックはなかったが、その後、クラブチームの選手がこのテクニックを編み出したと言われている。当時のボールは革製で、水を吸い込むと「鉄球」のように重くなるため、へディングは非常に勇気のあるプレーだった。現在のサッカーボールは約450グラムと軽くなったものの、最高速度約130キロで頭にぶつかれば、大きな衝撃をもたらすことに変わりはない。

選手のリスクは通常の4倍近く

 サッカーのテクニックとして100年以上用いられてきたへディングだが、最近になって問題視されるようになったのは、英国の伝説的スターだったボビー・チャールトンや1966年のワールドカップで優勝したイングランドチームのメンバーなど過去の名選手が相次いで認知症になったことがきっかけだ。

 サッカーと認知症の関係が取り沙汰されたことを踏まえ、英グラスゴー大学は1900~76年生まれのスコットランド出身の男性を元サッカープロ選手(約7700人)と一般人(約2万3000人)に分け、比較した調査結果を2019年に公表した。

 それによれば、へディングをほとんど行わないゴールキーパーが認知症になるリスクが一般と同程度であるのに対し、その他の選手のリスクは通常の4倍近くに達した。認知症になるリスクはキャリアの長さにも関連しており、キャリアの長い選手のリスクはキャリアの短い選手の約2倍に上るという。

 サッカーの試合では、頭を強打した選手がピッチから運び出されることがあるが、認知症になるリスクはこのような大きな衝撃に限定されない。

 普段の練習で受ける小さな衝撃もリスク要因であることがわかってきている。

 最新の研究では、へディングの練習を20回するだけでただちに脳機能に測定可能な変化が見られることや、認知症の一種である慢性外傷性脳症は日常的な活動の中で規則的に脳に衝撃を受けている人のみが発症していることが明らかになっている。

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