加齢臭の消えた日曜劇場「アトムの童」 オダギリジョーが「今どきのいけすかない社長」を好演

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 電車に乗ると気付く。老いも若きもみんなスマホでゲームをしている。かくいう私も時々やっちゃう。「テトリス」「上海」「数独」「スパイダーソリティア」(全部無料ね)。やり始めたらもう大変。気付いたら朝。なんなん、あの中毒性は。世界中の人間をとりこ(腑抜け)にして時間と金を泥棒するビジネス。そりゃあ日本経済を支える巨大市場になるのも当然よね。

 そんなゲーム業界といえば、テレ東ドラマ。ちょいちょいゲーム業界を描いて、実情を教えてくれたことを思い出す。2013年には、要潤が天才クリエーターを演じた「東京トイボックス」や、田中圭が主演だがゲーセンの店長で、プログラマーは浜野謙太が演じた「ノーコン・キッド」があったっけ。ほんのちょい前にも、渡邊圭祐主演で、ゲーム制作業界の過酷な日常を描いた「チェイサーゲーム」が放送。テレ東のおかげでうっすら知ることができた、昭和からの飛躍的な市場規模拡大と、それに追いつかない労働環境の厳しい現実。そこを踏まえて、今、TBS日曜劇場「アトムの童(こ)」を楽しんでおる。

 正直、「俺たちの汗と涙とネジと下剋上、時々太陽」の日曜劇場は好みではなかったが、今作は加齢臭が消えた気がする。いや、おじさんは健在だし、放火にデータ削除に貸しはがし、犯罪まがいの嫌がらせも山盛り。でも、ゲームクリエーターの知能と玩具メーカーの遺産がコラボするアイデアは胸高鳴るほど面白い。

 主演の山崎賢人と松下洸平、岸井ゆきののトリオもいい座組である。子供心と野性味を残しつつも一点集中型の天才を賢人が、調整とバランスと理性の秀才を洸平が、努力と根性と体力をゆきのが担う三角形が新鮮。ゲーム業界は、若さと機転と賢さで闘える世界なのだと夢を見させてくれた。

 三人に立ちはだかる巨大IT企業「サガス」のいけすかない社長に、オダギリジョーは適役。高層ビルの無機質系素敵オフィスで、打ち合わせや面会時にこじゃれた酒飲んでフィンガーフードとか食って、夜は高級店で会食するイマドキの社長のイメージ(先入観)にぴったり。なんか食べっぱなしよね、オダジョー。ねずみ色の背広のおじさんがわらわらうごめく世界とは無縁。スマホひとつで人と金を動かす感じがスマートで憎たらしい。日本の組織に蔓延(はびこ)る土着的かつ威圧的なおじさんヒールに飽きてきたところで、新風吹き込んだよね。

 ゆきのの父(風間杜夫)が守ってきた「アトム玩具」には、資金も威厳もないが矜持と技術はある。専務のでんでんと職人の塚地武雅は、変わり者が集う古き良き零細企業を体現。裏切り者だが改心して仲間になる林泰文、サガスとアトムの両方に協力する八方美人の玄理(ヒョンリ)(食べっぷりがいいね)は、七転び八起きの劇的な展開に必須のキャラでもある。

 現実では悪名高き経産省官僚(西田尚美)が登場したあたりから、真の敵は巨大企業にあらず国家権力、という定番へ(または外資か?)。既にオダジョーのほえづら待ち。矛盾だがスマートなほえづらを期待する。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年12月8日号掲載

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