藤井聡太五冠が竜王防衛 敗れても評価される広瀬章人八段の“藤井研究”
敗れても高い評価
5年前、当時の羽生竜王からタイトルを奪取しながら、翌年の防衛戦で豊島将之九段(32)に敗れた広瀬。竜王奪還に向けて研究を重ね、第2局や第3局は勝ってもおかしくなかった。特に第3局は絶対的な優勢をわずかなことで逆転され、本人もかなり衝撃を受けていた。広瀬自身も「第3局を落としたのが悔やまれます」とシリーズを振り返った。
藤井は感想戦後の会見で、この6局の戦いを振り返って「(広瀬八段は)最近、指されていない形を何局か指されて、珍しい形になりました。(中略)掘り下げてその中で一歩踏み込んだ工夫をされている印象でした。対応に失敗して苦しくした感じでしたが、こちらも踏み込んで指さなくてはならなかった」などと話した。
記者の質問に、まず「あ、はい」と優しい声で答えてから「そうですね」としばらく沈黙し、今度は早口で答える姿は相変わらずだ。
具体的な手筋を聞かれると「封じ手の『3八銀』は有力な手と思っていたが、それに対してどうするか。こちらから千日手になるような変化もあってうまくいかなかった。『3八銀』に対して『5九飛車』も有力で、その比較も掘り下げて考えなくてはならなかったのかなあと思っています。『2六角』の局面は悪くないと思っていましたが、『4四香』は千日手になる展開もあって、自信が持てない展開でした」などと話した。
中盤で藤井は「1五」に角を打って広瀬の玉を狙ったが、広瀬はこの角の頭に歩を打って追い払おうとした。加藤一二三九段(82)は日刊スポーツ 12月4日付の「ひふみんEYE」で、この一手が敗因だと分析した。それでも「(藤井の)11回のタイトル戦のなかで、最年少5冠を最も苦しめたと思いますよ」と、この一局の内容を高く評価した。
広瀬は6局を振り返って「スコア以上に完敗だった」と肩を落としたが、ABEMAで解説した中川八段は、「『4六』と飛車が縦に逃げたのは意外な手でした。スコアは4勝2敗だが、内容的には肉薄したシリーズだった。3局目では広瀬が勝っておかしくなかった。先手を生かして広瀬八段が七番(六番)通じて自分の将棋がある程度成功したのでは。この手が悪いというのはなかった気がする。難しい将棋が多かった」などと振り返った。
藤井のこれまで11回のタイトル戦で彼に2勝したのは、2021年の叡王戦五番勝負の豊島と今回の広瀬だけである。大勝負を終えた広瀬は、これで少しは大好きなサッカーW杯が観戦できるだろう。早稲田大学在学中の2010年に将棋史上初めて大学生のタイトルホルダー(王位)になった好人物の強豪・広瀬が、深い研究を重ねて再びタイトル戦に登場し、15歳年下の天才を相手に今回のような名局を見せてくれることを期待したい。敗れても内容をプロ仲間に高く評価されるのは、真のトップ棋士の証しだろう。広瀬に「ブラボー」である。
さて、年明けからの王将戦七番勝負で通算タイトル100期を目指す羽生九段の挑戦について、会見で質問された藤井は、「(羽生九段は)一局ごとにテーマを持って臨まれて工夫されていて充実しているのかなあと思っています」などと話し、いつものように引き締めていた。(一部、敬称略)
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