姉と婚約中に2歳年下の妹と…2人の間で苦しんだ「浮気夫」の12年 翻弄のすえ出した結論は

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ニヤリと笑った

 その後、麻奈美さんとは結婚式について相談することが山ほどあった。たびたび会いながらも、信一朗さんは気が重くてならなかったという。

「しばらくたったころ、麻奈美が『佑香が妊娠したみたい』と言ったんです。ただ、相手の名前を言わないまま、産むとだけ言っていると。どうしたらいいかわからないと麻奈美は憔悴しているようでした。それからすぐ佑香からメールが来ました。『子どもができました。産みます』とだけ書いてあった。オレの子か? と言いたくなったけど、それは言ってはいけないセリフですから……」

 そこからは大騒動だった。佑香さんが麻奈美さんに問い詰められて、信一朗さんの名前を出したからだ。覚悟を決めて家を訪問すると、両親と麻奈美さんに詰め寄られた。少し離れたところで佑香さんはじっと彼を見つめていた。

「佑香さんと結婚します。そう言うしかなかった。『それはダメ』と麻奈美が叫んだのと、『そうしてもらうしかないね』と父親が言うのと同時でした。麻奈美は泣きながら家を飛び出していった。佑香がニヤリと笑ったのが目に入りました。この女は怖いと僕の本能がしきりに警報を鳴らしていたけど、もう止められませんでした」

 3ヶ月後には佑香さんと婚姻届を出した。麻奈美さんは家を出てひとり暮らしを始めたらしい。だが両親からも麻奈美さんの話はいっさい出なかった。信一朗さんは佑香さんの実家近くにマンションを借り、結婚式もしないまま新生活を始めた。

「親しい友人には説明しました。麻奈美のことも知っている友人ばかりだったので、みんなお通夜みたいに黙り込んでしまって。『おまえ、本当にそれでいいのか』とひとりが言葉を発したんですが、『いいわけないけど、しかたがないよ』と答えるのが精一杯でした」

 それでも佑香さんはせいいっぱい信一朗さんに尽くしてくれた。好きなものを聞いては料理に精を出し、つわりに耐えながら一生懸命家事をしているようだった。けなげだとは思ったが、麻奈美さんのように打てば響くタイプではないだけに信一朗さんには不満がたまっていく。

 それでも生まれた長女の顔を見たら、不満を抱いている場合ではないと感じた。こんな小さな命は自分が守るしかないと思ったのだ。

「けっこう浮気をしました。でも……」

 だが彼は結婚してから、一度も佑香さんと夜の生活をしていなかった。長女が生まれてからも、さりげなく寝室を別にして避けていた。だがあるとき、佑香さんに押し切られた。あのときと同じように、とてつもない快感があり、彼は逆にそれを恨みに思ったという。麻奈美さんへの罪悪感を覚えながら、佑香さんとの性行為に溺れる自分を許せなかった。

 2年後には長男が生まれた。麻奈美さんの行方は知らされていなかったが、どうやら実の両親も知らなかったようだ。

「結婚して5年たったころ、ふと佑香に、麻奈美はどうしているんだろうと言ったことがあるんです。佑香は『会社も辞めちゃったし、本当に行方がわからないの』と。申し訳ないことをしたとずっと思っていましたから、僕は何も言えなかった。そうしたら佑香が、『でも今さら、下手に出てこないでほしいわ』って。佑香は怖い女だと思った気持ちが蘇ってきました。彼女の中には、姉に対するどろどろした思いがあったんだと思います。どういう確執があったのかは僕にはわからないけれど」

 釈然としなかった。佑香さんと結婚したのだから、後ろを振り向く のはやめようと思ったが割り切れない。子どもたちはかわいいからなるべく早く帰宅するようにしていたものの、子どもと妻が寝静まったあと、近所のバーにふらりと出かけることもあった。子どものために家庭を明るく保とう、妻とも仲良くしようと考えていたが、その元となっているのは麻奈美さんへの贖罪にほかならない。自分の偽善ぶりがいやになった。せめて彼女の妹を不幸にしないよう気を配っていただけだ。それに気づいて、信一朗さんの中で何かがぷつりと切れた。

「30代後半はけっこう浮気をしました。でも、誰と何をしても虚しいだけ。本当は麻奈美に会いたかった。麻奈美と人生をやり直したかった」

 覚悟を決めて、麻奈美さんと仲のよかった学生時代の友人に連絡をとった。だが彼女でさえ行方を知らないと言った。むしろ居場所がわかったら連絡してほしいと言われて、信一朗さんは本格的に麻奈美さんを探すことにした。

「ずっと前に、麻奈美の高校時代の友人に会ったことがあるんです。そのとき確か連絡先を教えてくれた女性がいたような気がして、昔のスケジュール帳を引っ張り出しました。そこにたまたま、その女性の名刺が挟んであった。連絡をとると『麻奈美のショックがどれほどだったかわかりますか?』と言われました。このままだと僕自身も生きていくことがむずかしい状態であること、せめて一言きちんと謝りたいことを伝えると、その女性はまた連絡すると」

 そして数日後、知らない携帯番号から彼の携帯に電話がかかってきた。もしもし、と出るとすぐ彼は気づいた。「麻奈美?」と言うと、思いがけなく「幸せなの?」と直球を投げられた。いや、と口ごもってから、会いたいとつぶやいた。

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