ワクチン接種で死亡者数急増は本当か? 専門家が「日本は超過死亡率が最も少ない国のひとつ」と説く理由
「平均余命」と「ワクチン接種率」
前述のように超過死亡には交通事故死や自殺など全死因が含まれるため、逆にいえばコロナ禍でインフルエンザなど他の感染症が減少、あるいは外出を控えたことで交通事故死が減るなどすれば、超過死亡がマイナスになることもある。
実際、浦島教授らの研究チームがWHOのデータをもとに算出したところ、日本の同期間(20年1月~21年12月)における超過死亡率(超過死亡者数を人口10万人あたりに換算した数値)はマイナスで、調査した世界164か国のなかで2番目に低かったという。ちなみに世界で超過死亡が最も少なかったのは中国だが、実態に即した正確なデータがどこまで反映されているか不明な部分が残り、一概に評価できない面があるという。
「新型コロナによる死亡は高齢者で最も多いため、“世界一の高齢者大国”である日本では当然、超過死亡も高くなると考えられました。しかし調査の結果は、意外にも日本は超過死亡率が最も少ない国のひとつであるというものでした。その理由を探るため、研究チームがコロナ流行前の健康や人口、経済など50の指標との相関を調べたところ、とくに高い相関を示したのが〈60歳の平均余命〉と〈21年末までのワクチン2回接種率〉です」
とりわけ影響が強いと見られる相関因子が“60歳の人があと何年生きられるかの平均値”をあらわした「60歳の平均余命」という。
「平均余命が長いということは、誰でも高度な医療を受けられる環境や地域医療の質の高さ、国民の高い健康意識などが背景にあります。つまりコロナ以前の“平時”における医療インフラや資源こそ、コロナ禍という“有事”においても超過死亡を低く抑えることに寄与したと推察できる。データは21年12月までのものなので、いま現在にそっくり当てはめることはできませんが、今年に入ってから医療インフラや資源が急激に悪化したとは考えにくく、22年も世界と比較して日本の超過死亡率は低い水準で推移する可能性が高いと考えます」(浦島氏)
10年以上前から死亡率は右肩上がり
研究結果はワクチン接種がコロナの重症化予防に有効であることも示しているが、今年に入っての死亡者増加とワクチンとの関連については、現時点で「不明」というほかないという。
国内のコロナ感染による累計死者数はすでに5万人を超え、この1年間だけで3万人以上が増加。しかしハイペースで増えている死者数についても、浦島氏はこんな視点を提示する。
「高齢化の急速な進行で、実はコロナの有無にかかわらず、日本の死亡率は長らく“毎年、過去最高”を更新しています。11年の東日本大震災以降も一貫して増加傾向が続いており、平均すると毎月10万~13万人程度が亡くなっている。数十年単位のスパンで眺めると、今年の死亡者数が際立った上昇を示している点は見られず、超過死亡についてはより冷静な議論が必要と考えます」
超過死亡に注目が集まるのは国民の間に「未知への不安」があるからだ。国や研究機関による早急な検証が待たれる。
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