「定年になる夫との二人暮らしが心配」 58歳の妻の背中を押したカウンセラーの言葉とは
成立期がなかった夫婦
説明を聞いていた相談者の彼女が、小さくつぶやきます。
「私たちは、赤ちゃんのことは考えたり決めたりしてきましたが、彼自身のことと私自身のことはほとんど話していなかったから、夫婦としては成立しなかったのかもしれません」
すぐにこちらの話の意図を理解できるあたりに、彼女の聡明さを感じます。
彼女の推察の通り、「できちゃった結婚」の落とし穴がそこにあります。結婚している、していないにかかわらず新しい命を授かるのは素晴らしいことです。
私は、妊娠が先であることを決して否定しません。
が、夫婦のライフサイクルにおいては、「成立期」に赤ちゃん中心となって、夫婦自身が互いを知るためだけに時間を過ごすことができない状態となりがちのように数多くの相談に乗った経験上感じます。
たとえば、食事をする時にも彼や彼女の好みのメニューと味付けではなく、お腹の赤ちゃんにとってよいと思われる食事を取ることもありますし、彼の好きなロックコンサートへ一緒に行くのではなく、胎教によい音楽を静かに聴きたいと思うかもしれません。赤ちゃん中心というのはそういうことです。
子供が生まれてから
赤ちゃんが生まれて子供になり、成長した第1子が巣立つまでを、夫婦のライフサイクルでは「拡張期」と呼びます。
この時期に、父親として母親としての自覚も生まれ、親として子供のために社会との接点を持ちます。子供の友達の両親と良い関係を築こうと心がけたり、PTA活動に参加したりもします。出産まではあまり接点がなかった互いの実家とのかかわりも増えます。子供の成長とともに、百日祝いや七五三詣、クリスマスにお正月のお年玉、入学や進級祝いといった、親族や友人と子供の成長を祝う機会はたくさんあります。2人目、3人目のお子さんが生まれた場合も同じですね。
ライフサイクル3番目の「拡散期」は、第1子の巣立ちから末子の巣立ちまでをいいます。
昔の日本では、一つの家族に子供が5人、8人といた時代がありましたので、この「拡散期」を迎えるまでに5年、10年とかかった夫婦も多かったことと思います。
ところが少子化の今、子供が1人しかいない家族では、「拡張期」と「拡散期」を同時に迎えることになります。
個人的な話になりますが、私の場合も、「拡張期」と「拡散期」を同時に迎えています。一人娘が5歳の時に離婚しており子供は1人だけです。娘は、中学を卒業した後イギリスの高校へ単身渡り、大学もロンドンで進学しましたので、「拡張期」と「拡散期」を娘が15歳の時に迎えています。
もちろん学費の支払い等は続きましたが、親として子供に文化や慣習を伝え教育する意味での子育ては娘が15歳の時に終わっており、彼女は15歳で巣立ちを迎えたということになります。
58歳で、2人のお子さんが同時に巣立った相談者女性の場合も、「拡張期」と「拡散期」をほぼ同時に迎えていらっしゃいます。
その次に起こる夫婦のライフサイクルは、「回帰期」です。
ひと組の男女からはじまった夫婦の子供たちが巣立ったことで、ぐるっと回ってまた夫婦二人の生活に戻る時期です。
また私事ですが、娘は結婚、出産し近頃私は孫の世話をすることも増えました。まさに「交替期」に入ったと実感しています。
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