中国全土で燃え広がる「反ゼロコロナ」騒乱の深層 “強権鎮圧”のキッカケは「自由」を叫んだ清華大学デモと「エリートの反乱」
デモ鎮圧のキッカケになった「自由」の文字
抗議のシンボルとなったのが、参加者が掲げるA4版の白紙だ。「白紙運動」とも呼ばれる今回の一連の抗議活動において、習総書記の母校である北京・清華大学でのデモの様子を捉えた1枚の写真が話題を呼んでいる。
「なぜ白紙かといえば、文字が書かれていなければ、法律や条例に違反することはなく、たとえ逮捕されても当局に追及の材料を与えることにならないからです。清華大学の抗議集会では多くの白紙が掲げられたなか、1台のスマートフォンのパネルに〈自由〉と手書きで書かれた文字を映したショットがSNS上で拡散しました。中国語で〈自由〉とは“自分が欲するままに何でもする”という意味で、社会に混乱をもたらしかねないとして“中国革命の父”孫文も使わなかった禁句に近い言葉です」(田代氏)
この「自由」という言葉が公然と唱えられたことを契機に、当局が本腰を入れてデモ鎮圧に乗り出した可能性が指摘されているという。
エリート層による“反乱”
さらに習政権がもっとも震撼したのはデモの拡大ではないとも。
「騒動に火をつけたウルムチ市での火災による死者を悼むため、上海など大都市で開かれた集会はエリート層の青年たちによって行われたものでした。共産党の核をなす大都市のエリート青年層の一部が“連帯”を示して遠く離れた地の見知らぬ人々に“連帯”の意思を示した。これは〈中国人〉が実体となった歴史的な事件と位置付けられます」(田代氏)
それゆえ、習総書記に与えた衝撃も大きかったとされる。しかし焦点となっているゼロコロナ政策を習政権が撤回することはないというのが衆目の一致した見方だ。理由はメンツや威信の問題よりも、政権にとって“ゼロコロナ以外に選択肢はない”国内事情があるためという。
「中国は医師や医療機関が圧倒的に不足しており、医療インフラが極めて脆弱です。感染を徹底して封じ込めないと“医療崩壊”に直結しかねず、“コロナとの共存”政策に舵を切れない事情がある。実は多くの人はゼロコロナそのものに抗議しているというより、一刀両断の硬直的な行動制限に抗議している。日本では報じられていませんが、デモ拡大の最中、コロナ感染者が出て封鎖中の地区の住民へ食べきれないほどの食糧が配給されています。騒動の鎮圧と並行して不満の解消に向けた策を打っているのです。さらには今回の騒動を奇貨として、ゼロコロナの看板を掲げながら行動制限を実質的に緩める方向へシフトし、経済回復へとつなげる戦略に移行しています。実際、11月29日に中国共産党政法委員会が“社会秩序を乱す犯罪行為を打破する”と宣言した翌30日、北京や広州など各地で行動制限の緩和が通知されました」(田代氏)
それでも民衆の心に宿った“火種”は燻り続けるか。