「silent」が記録更新中のTVer 民放テレビ局に入る分配金はどれくらいなのか

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TVerは大きくは儲からない

「silent」も含め、TVerで観る番組は再放送と基本的に同じだからである。誤解している人も多いようだが、再放送はいくら高視聴率を獲ろうが、高いスポンサー料は取れない。

「スポンサー料は制作費込み」だからである。だからスポンサーは番組にも口を出せる。スポンサー料は高額になる。一方で民放の利益も膨らむ。制作費がタダの再放送に高いスポンサー料を払う企業はどこにも存在しない。

「ウチが再放送を避けている理由は売り上げが落ちるから」(日本テレビ制作マン)

 TVerで流される番組も再放送と同じく制作費がかかっていないので、高いスポンサー料は取れない。

「TVerでいくら観てもらっても配分金(TVerから得られる収入)を多く得るのは無理」(同・日本テレビ制作マン)

 民放にTVerから入る配分金はどれくらいなのか。TVerなど無料配信のCM売り上げを公表しているのは日本テレビとフジである。そ2022年度第1四半期(今年4月~6月)を見ると、現時点でのTVerの「経済的な実力」が分かる。

 日テレは単体でのCM売上高が約572億1100万円なのに対し、無料配信による売上高は約9.9億円。フジは同じくCM売上高が約400億2500万円で、無料配信による売上高は9.9 億円。偶然だが同額だ。

 どちらも右肩上がりで伸びているものの、まだ局の屋台骨を背負う存在ではない。高いスポンサー料を取れない仕組みを考えると、将来的にも収益の核にはなるのは難しい。そう考えると、視聴率第一主義が捨てられるはずがない。

 だが、心配無用なのだ。TVerで高い再生数を記録するドラマはコア視聴率も高くなる。相関性がある。スマホやパソコンなどでドラマを観る人は13歳から49歳のコア層が多いからだ。

 コア視聴率は低いのにTVerの再生数だけ高いということはあり得ない。「silent」以外もそう。それはデータが証明している。

 例えば全10話のTVer再生回数が約2280万回に達した昨年の秋ドラマ「最愛」(TBS系)の場合、コア視聴率も断トツ。同12月17日放送の最終回のコア視聴率は4.3%もあった。「silent」にはおよばないものの、昨年の秋ドラマでは他作品を圧倒した。

「最愛」も低視聴率という誤解を受けたが、それも世帯視聴率で考えられたから。「最愛」の再生回数は昨年のナンバーワンで「TVerアワード2021」を受賞した。

TVerの効用とは?

 TVerには番組のPR以外にも効用がある。

「ウチの系列であるHulu(定額制ビデオ・オン・デマンド・サービス)の伸びに好影響をもたらしている。TVerによって、ネットでコンテンツを観ることに抵抗がなくなったのでしょう」(同・日本テレビ制作マン)

 これは各局共通の動きだ。

 そもそもTVerの目的は「見逃し配信」と「同時配信」という視聴者サービスと「違法動画の駆逐」なのである。TVerという公式配信が浸透したら、番組を勝手に流している違法動画サイトは生き残りが難しくなる。

 なにより、TVerによって「テレビ番組の面白さ」を再認識させることが出来る。これは大きい。一方、TVerは民放が合同で設立したのだから、視聴率を下げてまで観せるはずがない。ちなみにTVerの社長はフジ出身だ。

伸びない「NHKプラス」、その理由とは?

 NHKにもTVer同様のサービス「NHKプラス」がある。2020年に始まった。今年4月からはNHK総合の番組を24時間、同時配信している。

 便利なサービスだ。もっとも、登録数は300万以下。NHKの受信契約件数は約4100万件で、TVerのアプリのダウンロード数は7月に5000万を突破したことを考えると、伸び悩んでいる。

 どんなにサービスが便利でも観たい番組がないと登録者は増えない。NHKも人気番組をもっと増やさないと、「NHKプラス」の登録数は足踏みを続けるだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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