ある日、胃がんが発覚したアラフィフ夫 それを知った妻と不倫相手の反応で感じた“2人の性格問題”

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突然の宣告…妻と彼女の対応の落差

 ところがその1年後のことだ。貴典さんは会社の健康診断にひっかかったのだが、精密検査を先延ばししていた。ある日、胃痛に耐えられなくなり、病院で検査を受けて胃がんが判明した。

「ショックではあったけど、そういうこともあるのかと受け止めました。事実だからしかたないですもんね。妻は『休職するしかないのよね、お給料はどうなるの』というのが第一声で、がっくりきました。その後は『そんなことよりあなたの体よね』と自分に言い聞かせては泣いたり騒いだり大変でした。とにかく子どもたちを頼むと言いました」

 一方、里香さんは「わかった。とにかくあなたが無事に治ることを祈ってる。私のことは気にしないで」ときっぱり言った。彼女の表情から、どれほど心配してくれているかがわかったと彼は言う。

 会社に報告して即刻、入院。胃を全摘、再建手術、術後の化学療法まで、あわただしく過ぎていった。その間も、里香さんとは連絡を取り合っていた。入院中、家族が来ない時間を見計らって「嫌じゃなかったら病院に来て」と頼んだこともある。里香さんは飛んで来た。

「妻にも来なくていいと言っていた僕が、里香にだけは会いたかった。気弱になったわけではなくて、とにかく会いたかったんです」

 療養がすんで仕事に復帰したものの、体調はすぐれなかった。胃を全摘しているから、食事が少しずつしかとれない。それでも徐々に回復していった。里香さんにはときどき会った。体がつらくて行為はできなくても、里香さんと抱き合っているだけで生きる気力がわいてきた。

「最初から僕を愛してたわけじゃない」

 そして手術から5年がたち、医師に「とりあえずもう大丈夫」と言われたとき、彼は初めて自分が生と死の狭間をさまよっていたかのような気持ちになった。里香に会いたい。まずそう感じたそうだ。

「再発を恐れながら暮らしてきたし、この先もわからないけど、だからこそ自分の生きたいように生きたい。ちょうど里香の息子さんが就職して家を離れたと聞いていたので、離婚するから一緒に暮らしてもらえないだろうかと相談しました」

 それはできないと里香さんは言った。私はあなたと一緒にときどき過ごせればいい。それ以上は望まない、と。

「だけど僕があなたなしでは生きていられない。5年生きることができたのも、里香がいてくれたからだと言いました。1日に何回にも分けて食事をするのも、全部自分でやっていましたからね。妻に支えてもらった感覚はない。ただ、里香がいるから生きたいと思ったのは事実。里香は最終的には『私も本当はあなたと一緒にいたい』と言ってくれました。妻にもすべて話したんです。『この先を一緒に生きていきたい人がいる』って。妻は半狂乱になって騒ぎ立てました」

 私がもっと世話を焼けばよかったの? だっていつもあなた、自分のことはさっさと自分でやっちゃうじゃない。私だって心配したのよ、これほど心配かけておいて私たちを捨てるってどういうこと?

 頭がガンガンするほど甲高い声で叫び立てられて、貴典さんは苦笑してしまったそうだ。

「きみは最初から僕を愛してたわけじゃない。僕が口説いたから、その気になっただけなんじゃないのか。売り言葉に買い言葉でつい、そんなふうに言ってしまいました。『うちの親にも愛想はないし、あなたには感謝の気持ちが足りない』と妻は毒づいていました」

 家族観が違う、人生観が違う。そう言ってしまえば終わりだが、結局はそういうことなのかもしれない。

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