目に涙を浮かべて「冥土の土産ができた」と笑う父… フリーアナウンサー・堀井美香が父の上京で再認識した「東京と自分」の距離感

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相変わらず東京人になれないでいる自分

 築地で育ったというすし屋の大将は、そうですか、広島からですかと言いながら、江戸前ずしなら是非コハダをと言って握ってくれた。「コハダの状態やここらへんの天気によって酢の量や〆かたなんかを微妙に変えるんです。江戸前の職人ごとに、こだわりも味も違いますね」と言いながら、目の前に出してくれたコハダは、なんとも涼しげでスズ色に輝いていた。口に入れると爽やかな酢の香りが鼻に抜ける。軽やかな食感も、程よく上品なうまみも、私が想像する東京そのものだった。初めて食べるコハダの握りに、また観光客のような面持ちになり、相変わらず東京人になれないでいる自分を実感した。

 私たちは東京にたくさんのものをもらってきた。東京に育ててももらった。いつかまた大切な何かに引き寄せられて、勝手にここを出て行っても、東京は何も言わないだろう。きっと、流れ行く時間に仮住まいしていた私たちのことなど忘れてしまうはずだ。いや、東京は、私たちがいたことだって、気にもとめていないのだ。

堀井美香(ほりい・みか)
元TBSアナウンサー。現在はフリーアナウンサーとしてナレーションやラジオを中心に活動中。

デイリー新潮編集部

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