どうなるリニア問題 再び泥沼化しそうなJR東海vs静岡県の20年戦争
来春に予定されている静岡市長選が、にわかに注目を集めている。
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神奈川県横浜市や大阪府大阪市のように、巨大都市の市長選が話題になることは珍しくない。静岡市は静岡県の県庁所在地で、なおかつ政令指定都市でもある。そうした都市規模から考えれば、市長選が注目を集めることは不思議な話ではない。しかし、静岡市の人口は約68万人。約377万人を擁する横浜市、約269万人を擁する大阪市とは比較にならない。
静岡市の市長選が注目を集めている理由は、JR東海が建設を進めるリニア中央新幹線の計画にも大きな影響を及ぼすからにほかならない。これは静岡県だけの問題ではなく、国土計画、つまり日本全体の問題でもある。
もともとリニア中央新幹線は、2025年に開業する予定で工事が進められていた。しかし、工期の遅れから2027年開業に変更。2年後に先送りされる。
多少の狂いは生じたものの、その後は順調に工事が進むかのように思われた。そこに待ったをかけたのが、静岡県の川勝平太知事だった。
リニアは静岡市の山間部を通過する。そこは市街地から遠く離れている。そのため、利用者の想定はされていない。当然ながら駅を開設する予定はない。
事前に、JR東海はリニアの駅を静岡県内に開設しないことを明白にしていた。これは川勝知事も十分に理解していた。しかし、川勝知事は「工事によって大井川流域の水量が失われてしまう」ことを問題視。これによりリニア工事はストップする。
工事再開の条件には、知事(静岡県)が納得できる解決策をJR東海が示すことが課せられた。JR東海は工事で湧出する地下水の戻し方を繰り返し説明。それでも川勝知事は納得せず、いたずらに時間が経過。その間のやりとりにより、次第に両者の関係は悪化していった。
元は「リニア反対」ではなかった川勝知事
リニアを支持する側から見れば、川勝知事の言い分は難癖に見えるだろう。しかし、川勝知事も就任当初から強硬にリニアに反対していたわけではない。
2014年に開催された土木学会のシンポジウム「東海道新幹線と首都高 1964東京オリンピックに始まる50年の奇跡」に、川勝知事は登壇している。川勝知事は“高速道路と新幹線”というテーマで講演し、静岡県のポテンシャルが高いことを主張。多少の注文をつけながらも、リニアへの期待も込めていた。
川勝知事は2013年に2選を果たしたばかりで、シンポジウム開催時は知事として勢いに乗っていた。仮に、リニアに強硬に反対するなら、このときは絶好のチャンスだった。それにもかかわらず、反対の論陣を張っていない。
ところが、それから数年もしないうちに強硬な反対派へと翻意する。川勝知事がリニアに反対している主な理由は、工事に伴って発生する可能性がある大井川の水量減少と残土処理の問題の2つだ。
この2つの問題に対して、JR東海は静岡県の言い分を飲む姿勢を見せていた。静岡県の言い分を飲まなければ、リニアは開通しないのだから譲歩せざるを得ない。
JR東海が低姿勢を見せても、リニア問題は平行線をたどった。
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