今秋の医療ドラマ3本を比べてみた 「こんな病院はイヤだ」「ここなら行きたい」
この2カ月間、母が手術で入院、父が救急搬送されてICUに入院と、妙に病院に縁があった。後期高齢者がいる家はそんなもんか。病院も医師も看護師も、それぞれに長所・短所があり、観察するいい機会に。今期、医療ドラマが無駄に多いのも何かのご縁ということで比べてみました、3作品。
【写真を見る】中井貴一の演じるキャラが独特 感情が高ぶると広島弁で罵倒する
まずは「ザ・トラベルナース」。ダントツでこんな病院はイヤだと思わせるのが天乃総合メディカルセンター。政治家や富裕層の治療を最優先。金と名声ファーストで、事務方や医師の性根が腐っとる。テレ朝医療ドラマの定番っちゃ定番。
が、看護師が超絶凄腕。岡田将生が演じるトラベルナースと中井貴一は頼れる。食べることが大好きな患者(キムラ緑子)に胃ろう手術を勧める医師を差し置いて、嚥下トレーニングを断行する。親を緊急入院させるならここやな。というか、親は貴一に診てほしい。そして私自身は将生に頼みたい。
医師はひどいが、ナースステーションの雰囲気は好き。料理が下手な寮母(池谷のぶえ)の元で共同生活しているが、なれ合いはせず、甘くない看護師が集結。奇麗事で済まない医療界の世知辛さを醸し出す面々。モンスターペイシェントに動じない鉄の尻をもつ安達祐実はプロだし、親近感ある野呂佳代とは無駄話したい。人材育成が下手な寺島しのぶの濃い愚痴も聞いてみたい。ちなみに母が入院した病院の看護師は奇麗事を言わないので信用できた。
次は「祈りのカルテ」(日テレ)。患者を観察する能力の高い研修医(玉森裕太)が活躍。3作中唯一の大学病院で、未熟な研修医はご勘弁。
が、玉森の観察眼で救われる患者多し。自傷行為を繰り返す背景に元夫のDVと搾取があった患者(仁村紗和)や、開腹手術でないと保険金が下りず、内視鏡手術を拒む患者(伊武雅刀)に寄り添う。なかなかのご都合主義。ただし。母が原因不明の病で診断がつかず、2度の入院後、大学病院に回された身からすると、「玉森のような鋭い医師がいてくれたら」とは思う。
最後は「PICU」(フジ)。個人的には最も縁のない、小児救急医療の世界を描いている。主演の吉沢亮は新米医師。新設の小児集中治療室に配属され、熱い思いはあるものの空回り。もうね、勝手に動くわ、患者の親から嫌われるわ、泣くわ、落ち込むわ、先輩に暴言吐くわ、海より深く反省するわ、と、使えない新人の青くて苦い失敗談がてんこ盛り。
救命救急の現場を描く作品は過去にもあったが、天才が見事に命を救うカタルシスが定石でうそ臭かった。
ところが、PICUでは最初から子供の命を救えない。医師の力量ではなく、距離と体制の問題も。なぜなら舞台は北海道。小児救急医療が整わない大きな壁に挑戦する安田顕といい、娘を亡くし、医療過誤裁判の最中の木村文乃といい、自殺未遂の親友・高杉真宙といい、背負うものが大きい医師ばかり。天才も神の手もいないのは現実的だ。
エンタメ性はザ・トラベルナース、医師の質は祈りのカルテ、作品としての見ごたえはPICU、かな。